研究課題/領域番号 |
20K21161
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
神野 郁夫 京都大学, 工学研究科, 教授 (50234167)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | X線コンピュータ断層撮影 / 電流敏感型前置増幅器 / 低雑音 / 電荷敏感型前置増幅器 / 低被ばく |
研究実績の概要 |
X線コンピュータ断層撮影(CT)は骨と重なるがん組織の観察が容易にできる診断法である.しかし,CTには被ばく量が高い,という問題がある.この問題の根本は,X線を電流測定することにある.すなわち,電流測定には電流敏感型前置増幅器(電流プリアンプ)を用いるが,この電子回路はX線によって検出器に誘起された電流を単に電流-電圧変換する回路である.このため,X線が検出器に入射しない場合にも発生する暗電流,すなわち雑音電流をも電圧変換する.CT測定として有意な測定を行うためには,暗電流の影響が無視できる程度の高い電流信号をもたらすX線が必要であり,このために被ばく量が高くなる. 本研究では,低雑音の電流プリアンプを開発することを目的とし,将来の低被ばくCTの実現を目指す.このため,低雑音特性を有する電荷敏感型前置増幅器(電荷プリアンプ)を応用する.一般的な電荷プリアンプは,オペアンプと並列に帰還容量および帰還抵抗が接続されている.この帰還抵抗を除去するとX線によって誘起された電圧が正確に蓄積される.この電圧の時間変化を測定することで,X線によって誘起された電流測定が可能となる. 電荷プリアンプを利用した電流プリアンプVIECを製作し,我々が従来から使用してきた電流プリアンプIPA-6と測定下限X線線量率を比較した.用いた実験体系では,X線管電圧30 kV,管電流1~3 mAのX線をIPA-6で測定した場合,暗電流と区別ができなかった.しかし,VIECでは,30 kV,1 mAのX線を測定できたのみならず,そのX線がアクリル 6 cm,アルミ0.5 cmを通過したのちも測定が可能であった.電流値としては,VIECはIPA-6の1/750以下の電流測定が可能であることを実証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来型電流プリアンプの1/750以下の電流測定が新規低雑音電流プリアンプVIECで可能であると示すことができたことは,大いに意義がある.このVIECは,パソコンと連動できないため,CT測定などは手動で行う必要があり,長い時間を要した.このため,パソコン制御ができる自動測定VIECの製作を依頼した.しかし,コロナウイルスの影響で,電子部品が海外から入手できなくなり,国内入手可能な部品を使った仕様に変更する,などが生じ,製作期間が予定より長引いた.このため,年度内に実施する予定であった,様々な条件を変更したCT測定がまだ完了していない.
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今後の研究の推進方策 |
自動測定VIECを用いたCT測定を実施し,従来型電流プリアンプIPA-6を用いたCT測定画像との比較を行う.X線線量率が低い条件においては,IPA-6では被検体の薄い部分と厚い部分を通過したX線線量率の区別ができないはずである.一方,VIECは低線量率においても線量率に応じた電流値を出力するので,IPA-6より線量率が約1/1000でもCT測定が可能であることを示す. また,VIECの測定電流値のダイナミックレンジを広げるための補助電子回路のアイディアを試す.これにより,医療応用のみならず,非破壊検査など工業利用に有益な電流プリアンプであることを実証できる.
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次年度使用額が生じた理由 |
新規開発した低雑音電流プリアンプVIECが従来型電流プリアンプIPA-6の1/750以下の電流測定が可能であることを示すことができた.しかし,コロナウイルス蔓延の伴う部品調達の遅れから,自動測定VIECの製作が遅くなり,予定していたVIECによるCT測定が不十分であった.このため,自動測定VIECの改善点を見出すことが遅くなり,次世代VIECの製作ができなかった. 次年度には,実用となる自動測定VIECを製作し,それを用いたCT測定法を確立する.
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