研究課題/領域番号 |
20K21164
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
宮丸 広幸 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80243187)
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研究分担者 |
小嶋 崇夫 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70360047)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | BNCT / ガンマ線 / 放射線計測 / コンプトン散乱 / 非同時計数法 |
研究実績の概要 |
現在、世界に先駆けて日本で大きく躍進している中性子を用いた脳腫瘍等への新しいがん治療法である“ほう素中性子捕捉療法”(BNCT)において中性子照射による患部への核反応事象が体内でどれだけ起きているかが測定できればリアルタイムで治療効果の診断ができる。そこで治療効果を推定するために治療中の患部から発せられる478keVの特定エネルギーのガンマ線を選択的に検出する新しい検出器の設計、開発を行っている。本研究ではBNCTの治療中において多くの放射線環境下(バックグラウンド)のガンマ線の中に含まれる、ごくわずかな治療成果を示す478keVの特定のガンマ線を狭角度非同時計数法を用いて選択的に高感度に計測する検出法の開発に挑戦している。本年度は本検出法の要となる主検出器と非同時計測を行うすり鉢状の検出器の相対的配置の最適化や検出効率の検証をモンテカルロシミュレーションコードPHITSを用いて解析を行った。本手法では主に中性子捕獲反応による水素の2.2MeVガンマ線によるコンプトン連続部の有効な除去を目指しているが、不要な信号の除去には主検出器へのガンマ線の入射角を絞り込む必要があることが明らかになった。これまでのシミュレーション計算の結果からは実機の製作の前に主検出器への入射角を絞り込む必要があるが、それにより検出効率の低下が引き起こされるため、非同時計数用の検出器の角度をより広く取ることにより効率低下を抑える工夫が必要であることが分かった。また信号弁別において十分な検出効率の確保が必要であるが、非同時計数を担う副検出器の形状や材料を工夫することでより向上させる必要があることがシミュレーション計算により明かになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
検出器本体の製作、設計のために入射条件、ガンマ線エネルギー分布条件を設定した数多くのシミュレーション計算が必要であることが明らかとなった。特に主検出器と非同時計数用の特殊な形状をした副検出器との配置の最適化などについて詳細な計算を行った。コンプトン事象信号の弁別と検出器効率はトレードオフの関係にあるが、主たるバックグラウンドガンマ線を2.2MeVの水素の中性子捕獲ガンマ線に想定し検出器の開発を進めている。エネルギー分析を行う主検出器へ入射するガンマ線の入射角には強い制限を与える必要があることがシミュレーション計算により明かになった。また、副検出器の検出効率の向上を目指したシンチレーター材料の改良、工夫も検討する必要があることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのシミュレーション計算結果を総合的に解析し、検出器本体のサイズや2つの検出器の相対配置などを決定した上で検出器実機の製作を今後進めていく。また入射ガンマ線の方向を制限するしゃへい体系についても同時に設計し製作する予定である。非同時計数についてはそれぞれの検出器出力からのリニア信号を用いてトリガーを作成しTACを用いて時間相関を計測し、同時事象のタイミングを実験的に求める。またその際には本学が有する大規模ガンマ線照射施設に所有するCo-60ガンマ線を用い、そこコンプトン事象との相関を見る予定である。検出器体系が整備された段階で非同時計数による光電ピークとコンプトン連続部の低減効果について実験的に評価を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では物品費として高い割合を占める主検出器の購入を予定していたが、その形状や性能についてより詳細に検討が必要であることがシミュレーション計算によって明かとなった。このため必要となる予算を次年度以降に執行予定としたためである。
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