研究課題/領域番号 |
20K21167
|
研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
西川 浩之 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 教授 (40264585)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
|
キーワード | 円偏光発光 / キラル誘起スピン選択 / キラル伝導体 / 発光デバイス |
研究実績の概要 |
円偏光発光(CPL)材料を用いた発光デバイスは,幅広い分野への応用が期待されている。CPL を発する有機ELの報告例はあるものの,円偏光性の度合いを表す値であるg値が小さく,実用研究への障害となっている。本研究では,有機EL デバイスの電荷輸送層にキラル誘起スピン選択性効果を利用することにより,高い円偏光特性を示す円偏光有機発光ダイオードの開発を目的とする。本年度は凝集誘起円偏光発光材料を用いた有機ELの最適化を中心に研究を行った。キラルなペリレンジイミド誘導体である(R,R)-および(S,S)-BPPは,凝集状態で円偏光を発光する凝集誘起円偏光発光分子である。この材料を用いた発光層とホール輸送層のみからなる非常に単純な構造の有機ELの開発には既に成功しているが,デバイスの輝度が非常に小さく,電界CPLの測定には至っていない。本年度は,発光層に従来の有機ELで用いられるホスト材料を用い,ホスト-ゲスト型のデバイスの構築を行った。ホスト材料として,カルバゾイルビフェニル誘導体であるDCBPおよびCDBP,ポリフルオレン誘導体PFO,ポリビニルカルバゾールPVC,ポリチオフェン誘導体P3HTを検討した。各ホスト材料とキラルBPP誘導体とのホスト‐ゲスト膜を作製し,ホストおよびゲスト材料の吸収波長で励起して,発光スペクトルを測定したところ,ホスト材料としてDCBP,CDBP,PFO,PVCを用いた薄膜では,ホストからゲストへの効率的なエネルギー移動が観測された。そこでPVCをホストとしたELデバイスを作製したところ,EL特性の向上は見られなかった。 次に,キラル誘起スピン選択性効果を利用したスピン偏極電流注入型の発光デバイスの作製のため,ホール輸送層となるキラルなドナーの合成に着手した。具体的にはp型半導体として知られるポリチオフェンにキラルな側鎖を導入した高分子の合成を検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題では,有機EL デバイスの電荷輸送層にキラル誘起スピン選択性効果を利用することにより,高い円偏光特性を示す円偏光有機発光ダイオードの開発を目的としており,①凝集誘起円偏光発光材料を用いた有機ELデバイスの最適化,②キラル誘起スピン選択性効果を利用したスピン偏極電流注入型CP-OLEDの開発,③キラル誘起スピン選択性効果を導入したCP-OLEDへの強磁性電極の導入,の3項目を検討する。 本年度は本研究課題の初年度であり,既にELデバイスの作製に成功している,凝集誘起円偏光発光材料である(R,R)-および(S,S)-BPPを用いたデバイスの特性向上を検討した。これまでに作製したキラルBPP誘導体を用いたELデバイスは,発光層とホール輸送層のみからなる簡便な構造のデバイスであり,輝度や量子効率等のEL特性が引くことが課題であった。そこで種々のホストを発光層に用いたホスト‐ゲスト型のデバイスを構築するため,ホスト‐ゲスト膜を作製し,その発光特性の検討を行った。その結果,ホストからゲストへの効率の良いエネルギー移動が確認でき,そのようなホストのうちPVKを用いたデバイスの作製も行った。しかしデバイスの特性向上は認められなかった。その原因として,デバイス作製の環境が十分な嫌気下で行われなかったことが挙げられる。有機ELのデバイス特性は酸素および湿気に敏感であるため,グローブボックスを用いた嫌気性の環境が必要不可欠である。そこで本年度はグローブボックスの購入を予定していたが,購入の契約段階で事務的な不備があり,次年度の購入となってしまった。そのため今年度計画していた,キラルBPP誘導体を用いたELデバイスの特性向上という目的を完全に達成することができなかった。しかしながら,ホスト材料として適した材料を見出すことには成功していることから,全体としてはやや遅れているという評価とした。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度は既に作製に成功しているキラルBPP誘導体を発光材料に用いたELデバイスのデバイス特性の向上を目的として,ホスト‐ゲスト型のELデバイスの作製を検討した。ゲスト材料であるキラルBPPと種々のホスト材料のブレンド膜の発光測定から,ホストからゲスト材料への効率的なエネルギー移動を観測し,キラルBPPに対して最適なホスト材料を見出すことに成功した。そのようなホスト材料の一つであるポリビニルカルバゾールPVCをホストとしたELデバイスの作製を行ったが,EL特性の向上が確認できなかった。今回のデバイスは嫌気下で作製したものではなかったため,酸素および湿気の影響がデバイス特性の低さに関係しているものと考えられる。今年度購入予定であったグローブボックスを購入し,嫌気下でのデバイス作製を検討するとともに,PVC以外のホスト材料についてもデバイス化を行い,EL特性の評価を行う。また,本年度はキラル誘起スピン選択性効果を組み込んだデバイスを開発するため,ホール輸送層にキラルな置換基を導入したヘリカルなポリチオフェン誘導体の合成に着手した。その結果,予備的ではあるがキラルポリチオフェン誘導体の合成に成功した。今後はもう一方のキラルポリチオフェンの合成を行うとともに,キラルポリチオフェンをホール輸送層に用いたデバイスの作製を行いEL特性ならびに電界CPLの評価を行う。 デバイスの円偏光発光特性を評価するためには,電界CPLの測定が必要である。作製したデバイスは,ELの発光強度の減衰が大きいため,市販の測定系での測定が困難であることから,左右円偏光を分割し,同時測定する測定系の開発を行っている。現在開発中の測定系では,分割した左右円偏光をそれぞれ測定するための検出器が2台必要である。そこで,同じ仕様の検出器を用いることによって,左右円偏光強度に測定系に依存した強度差が生じない光学系の構築を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度,発光デバイスを嫌気下で作製するためのグローブボックスを購入する予定であり,必要な仕様の策定および機種の選定まで行ったが,大学側の事務手続き上の不備により,納品が遅れ本年度の購入ができなかった。次年度早々に機種の選定,入札等の諸手続きを行い,速やかにグローブボックスを購入し,研究課題の遂行を実現する。
|