研究課題/領域番号 |
20K21169
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
大島 康裕 東京工業大学, 理学院, 教授 (60213708)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
|
キーワード | キラル選択 / 超高速分光 / イオンイメージング / 回転コヒーレンス |
研究実績の概要 |
本研究は、従来までとは全く異なる原理に基づいて、高感度、高時間分解能、かつ、絶対不斉配置の決定をも可能とする、気相分子キラリティの高精度識別法を開発することを目的とする。異なるエナンチオマーは互いに鏡像関係の構造を有し、振動・回転エネルギー準位は同一で、この点では全く区別できない。しかし、3次元空間中の「方向性」では明確な差異が存在する。通常の気体中では配向がランダムで方向性の情報は失われてしまうが、分子がそろって回転する状態を作り出せれば、キラリティに関する情報を引き出すことができる。本研究では、超高速回転運動制御と空間配向を高い時間分解能で計測するクーロン爆発イメージングとを組み合わせてキラリティ識別を実現する。 研究初年度である令和2年度は、現有のクーロン爆発イメージング計測装置の改良に重点的に取り組んだ。クーロン爆発イメージング法では、高強度フェムト秒パルス光によって分子を多価イオン化し、正電荷間のクーロン反発による瞬時解離を引き起こす。生成した解離イオンの速度ベクトル分布は、解離直前の分子内の原子配置を直接反映するので、位置敏感検出器により2次元情報として測定し、そのデータから実験室系における分子の空間配向を再構成する。キラリティ識別という観点からは、右手分子ではある解離イオンが前方に飛び出すのに対して、左手系では後方に観測されることになる。従来までの2次元検出器に加えて、直交する方向にもう1組の2次元検出器を追加することにより、レーザーの進行方向に垂直な面で切り出されたイオン画像と、レーザーの光軸を含んだ面に射影されたイオン画像を同時取得しうる配置を実現し、キラル分子のクーロン爆発イメージングを多角的に観測する体制を構築した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画では、キラル分子を一方向に揃って回転させる超高速回転運動制御を実現した上で、フェムト秒高強度パルス照射によるクーロン爆発によって生じたフラグメントイオンについて3次元的にイメージを取得することよって、キラリティ識別を実現する。つまり、クーロン爆発イメージングの多角的観測がその成否を決定づける重要課題であるが、本年度を通じて取り組んできた装置改良によって、目的が達成される目途は付いたと評価される。
|
今後の研究の推進方策 |
観測体制が確立したので、早急にキラル分子の超高速回転運動制御に取り組む。対象分子としては、比較的原子数が少なくかつ強直であるプロピレンオキサイドを取り上げる予定である。当分子の1方向回転量子波束の生成が確認されたら、新しく追加した2次元検出器を用いて、キラリティ識別の実現に着手する。つまり、右手分子では解離イオンが前方に飛び出すのに対して、左手系では後方に観測されることを確認し、右・左分子の混合系に対して、前後の信号強度比から直接的に不斉過剰度を決定する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
光学部品などの少額の消耗品について、わずかながら購入価格を抑制することができたため、4000円弱程度の少額の余剰金が発生した。差額はわずかであり、来年度分として請求した助成金と合わせて、ほとんど変更なしで使用計画を実施する。
|