本研究目的は,微小液滴とフェムト秒パルスレーザーを用いた新規ソフトイオン化質量分析法,ならびに光還元法による金属ナノクラスター合成法の開発である。昨年度末までに質量分析用のイオン引き出しチャンバーおよびリフレクトロン飛行時間型質量分析器の製作を完了させた。イオン引き出し用の高電圧パルス発生器の納入が予定より大幅に遅れたため,最終年度にあたる本年度は後者に注力した。同合成法の開発にあたり,量子サイズ効果に起因する金属ナノクラスターの特異的な電子構造を明らかにする必要性を認識し,金属ナノクラスター負イオン用の光電子イメージング装置を新たに立ち上げた。既存の金属ナノクラスター連続発生装置に光電子加速電極を増設し,波長404 nm(光子エネルギー3.07 eV)のCWレーザーダイオードを用いることで,比較的安価な装置開発を実現させた。宇宙空間並みの極希薄試料に対しても,その光電子スペクトル,および光電子放出角度分布をわずか1分足らずで取得できる画期的な装置である。同装置の詳細を纏めた論文(題目:Photoelectron imaging of size-selected metal cluster anions in a quasi-continuous mode)を2022年5月3日米国物理学協会の専門学術誌Rev. Sci. Instrum.に投稿し,同年7月23日に受理された。金属ナノクラスターの価電子軌道について,その固有エネルギーだけではなく,軌道角運動量をも明らかにできる点に本装置開発の大きな意義がある。誌上発表に加え,今年度は国際学会2件,国内学会4件と関連学会における成果発表も積極的に行った。
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