研究課題/領域番号 |
20K21185
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
岩本 武明 東北大学, 理学研究科, 教授 (70302081)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | π電子系 / ケイ素 / 単結合 / 反応 |
研究実績の概要 |
π型Si-Si単結合をもつ1,3-ジクロロビシクロ[1.1.0]テトラシラン1に対してフェニルエチニルリチウムまたオクチニルリチウム(ヘキシルエチニルリチウム)を作用させると、橋頭位にそれぞれ1つずつエチニル基が導入されたビシクロ[1.1.0]テトラシラン2aおよび2bがそれぞれ青色および赤紫色粉末として得られた。X線単結晶構造解析の結果、2aおよび2bはそれぞれ結晶学的に平面のケイ素四員環を持っており、橋頭位ケイ素間にπ型Si-Si単結合をもつことが明らかになった。紫外可視吸収スペクトルにおいて、2aのほうが2bよりも長波長シフトしていた。このことは、フェニル基-アルキン-π型Si-Si単結合の間で共役があることがあることを示しており、π型Si-Si単結合がπ共役系の単位になることを明らかにした。また、2aおよび2bの溶液中の紫外可視吸収スペクトルは、結晶中のものに比べて、短波長していた。理論計算から溶液中では結晶中で見られた平面構造の他に、四員環が若干折れ曲がった構造をとることが示唆された。これはπ型Si-Si単結合が環境の影響を鋭敏に受ける柔らかい結合であることを示した。 また、新規ビシクロ[1.1.0]テトラシランを合成し、その一電子還元により対応するラジカルアニオンを合成単離した。X線結晶構造解析およびEPRスペクトル、理論計算からこのアニオンラジカルの橋頭位ケイ素間にはπ型の2中心3電子結合があることを見出した。σ型の2中心3電子結合に関する研究は多数あるが、π型の2中心3電子結合をもつ安定化合物はこれが初めての例である。 さらに、高度に歪んだC=C二重結合を持つと期待されるビシクロ[1.1.0]ブト-1(3)-エンの有望な前駆体となる化合物を、安定ジアルキルシリレンとハロアルケンから多段階で合成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
π型Si-Si単結合ユニットを持つ共役系の合成に成功し、π型Si-Si単結合がπ共役系のユニットになることを突き止め、当初の想定通りに研究は進んでいる。一方、結晶中と溶液中で構造や電子状態が変わるなど、当初想定していなかった挙動を示したため、その解析に時間がかかったが、これによりπ型Si-Si単結合の新たな特徴を明らかにすることができた。 また、高度に歪んだC=C二重結合を持つと期待されるビシクロ[1.1.0]ブト-1(3)-エンの有望な前駆体となる化合物の合成については、当初想定した安定ジアルキルシリレンのハロアルケンへの挿入反応では合成は難しいことが明らかになった。しかし、安定ジアルキルシリレンに対して段階的に官能基を導入することで前駆体を合成することができ、順調にビシクロ[1.1.0]ブト-1(3)-エンの合成に向けて準備を進めることができていると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
高度に歪んだC=C二重結合を持つと期待されるビシクロ[1.1.0]ブト-1(3)-エンを、今年度合成した前駆体を用いて合成し、その分子構造を明らかにする。この化合物は構造異性体としてブタトリエン型の異性体があることが予測されている。反応条件によってはその異性体が生成する可能性があるため、低温条件で合成するなど条件を精査する。また、合成したビシクロ[1.1.0]ブト-1(3)-エンの橋頭位炭素上へのハロゲンの付加によるπ型C-C単結合化合物の合成を進める。合成した化合物のX線構造解析による分子構造の解明、各種スペクトルと理論計算を用いた電子状態の解明を行うとともに、種々の試薬との反応を検討し、π型C-C単結合の性質解明を追究する。
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの進捗状況」のところにも記載したように、π型Si-Si単結合を含むπ共役化合物が当初想定していなかった挙動を示した。本研究で焦点を当てているπ型単結合化合物の本質を理解する上で、この挙動の分析その原因の解明が必要だったため、化合物の挙動の分析に時間を要した。また高度に歪んだC=C二重結合を持つと期待されるビシクロ[1.1.0]ブト-1(3)-エンの前駆体の合成が当初の想定以上の困難で時間を要した。研究目的を達成させるため、次年度使用額が生じた。また、コロナウイルス感染防止対策のために出張を予定していた学会等がオンラインになったことも次年度使用額が生じた理由である。次年度、物品費は主に化合物の合成およびスペクトル測定のための有機無機試薬および高純度の有機溶媒、旅費は学会参加のための旅費、その他は、化合物の同定のためのスペクトル測定の依頼費や英語論文校閲費等に主に用いる予定である。
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