ヨウ素の内部重原子効果に起因するS0 →Tn 遷移を基盤とする、新しい光反応の開発をおこなった。側鎖上にニトリル基を持つヨードベンゼン誘導体に対して、トリストリメチルシリルシラン存在下、400nmから450nmの可視光領域の光を照射すると、分子内ラジカル環化反応が進行した。さらに、反応により生成する中間体を酸で処理することで、シュードインドキシル誘導体へと直接変換可能であることを見出した。原料の光化学特性を調べた結果、400nmから450nm付近に弱いS0 →Tn 吸収帯があることがわかった。これにより、本反応がS0 →Tn 遷移により進行していることを実証した。本反応は、シュードインドキシルの酸素類縁体となるオキシクマランの合成にも応用可能であり、幅広い基質一般性を持つことがわかった。生成物を利用した応用研究として新規蛍光分子の開発にも展開した。特に、ビナフトール誘導体から調製した軸不斉を持つオキシクマラン誘導体においては、円偏光発光の特性を示した。また光反応触媒としての利用を検討した。すなわち、シュードインドキシルの5位にトリフルオロメチル基を有する誘導体が光触媒としての機能を示すことを見出し、450nmの可視光の照射下で、環状エーテルの酸素隣接炭素上の水素が効果的に引き抜かれ、水素移動型のラジカル共役付加反応に展開できることがわかった。上記の結果により、S0 →Tn 遷移による3重項励起状態の発生が、基礎化学的な研究対象に限定されることなく、有機合成化学研究にも展開できることを実証した。
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