本申請研究「環状ペプチドの新しい合成概念の創造」はペプチドの環化における新合成概念創造を目的とした。環状ペプチドは代謝安定性や膜透過性、標的分子への親和性を向上させると期待されており、医薬品として重要性を増している。通常C末端とN末端双方遊離の鎖状ペプチドの環化により合成されるが、従来法は穏やかな反応性の高価な縮合剤によりC末端のみを選択的に活性化する概念を基盤とする。これは高い反応性をもつ縮合剤を用いると、N末端側も反応し、続く環化が進行しなくなるためである。 本申請では、従来法と逆の概念を提案した。すなわち、高活性で安価なトリホスゲンを用いてCとN両末端を反応させて環状中間体を生成させ、その環縮小反応で環状ペプチドを得る手法である。R2年度に、トリホスゲンとN-メチルモルホリンを組み合わせる手法、およびトリホスゲンとN-メチルイミダゾールを組み合わせる手法の2つを確立し、これを基質の構造 に応じて使い分け、なおかつマイクロフロー合成法を駆使して副反応を抑止しつつ高収率で環化を進行させることに成功した。また、の合成を検討したところ、トリホスゲンとN-メチルイミダゾールを組み合わせる手法を用いることで、良好な収率で環状ペプチドを得ることに成功した。本法は安価で廃棄物を除きやすいトリホスゲンを用いるため、汎用されているPyBOP、PyAOP、DEPBT等の縮合剤を用いる手法と比して低コストである。 R3年度は反応機構に関しての知見を得るべく中間体の追跡を行った。その結果、当初想定していた環状の酸無水物が中間体として生成していることが示唆されるスペクトル解析結果が得られた。また、さらなる検討の結果、この中間体が安定であると、その後の目的物への変換が遅くなることがわかった。その後、さらに検討を進め、このような基質においても高収率で環状ペプチドを得られる手法を確立しつつある。
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