新たにホウ素とリンのリンカー構造をナフタレン環としたフラストレイテッドルイスペアを用いて,低温条件下で光照射(365 nm)を行うと,ホウ素上置換基であるメシチレン環の炭素-炭素二重結合に対するホウ素の挿入反応が進行し、2-borabicyclo[3.2.0]heptadiene骨格を有するホスホニウムボラートが定量的に生成することを見出した。本化合物の構造はNMRならびにX線結晶構造解析から明らかとした。さらに驚くべきことに,このホスホニウムボラートを暗所下室温で放置すると逆反応が進行し,光照射前のフラストレイテッドルイスペアが定量的に再生することも明らかとした。本反応は,光と熱を化学的な刺激としてホウ素による可逆な芳香環分解を実現した初めての例である。理論計算の結果から,本反応はフラストレイテッドルイスペアの光励起によって生じた励起3重項状態(フラストレイテッドラジカルペア)からボラノルカラジエン中間体が生成し,これが2回の電子環状反応を起こしたものと考えている。
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