研究課題/領域番号 |
20K21193
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
丸岡 啓二 京都大学, 薬学研究科, 研究員(特任教授) (20135304)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | ラジカル反応 / 有機ラジカル触媒 / N-オキシラジカル / N-ヒドロキシベンズイミダゾール / ベンジル位 / アルデヒド / アシルラジカル / フッ化アシル |
研究実績の概要 |
本研究の初年度では、ラジカル化学分野で汎用されているN-オキシラジカルの触媒活性種としての新たな側面を引き出すべく、独自の設計指針に基づくデザイン型有機ラジカル分子の創製及びそれらの新規有機ラジカル触媒としての機能開拓に取り組んでいる。これによって、合理的な分子デザインに基づくラジカル触媒反応開発の新たな可能性を提示することで、ラジカル反応化学のレベルを更に引き上げることを目指している。まず、同一分子内にラジカル活性部位となるヒドロキシルアミン構造に加え、複数の修飾可能部位を有する「N-ヒドロキシベンズイミダゾール(NHBI)」を基本骨格とする画期的な分子デザインを採用し、これを有機ラジカル触媒として水素引き抜き反応に用いることで機能評価を行なった。このため、各種のN-ヒドロキシベンゾイミダゾール(NHBI)化合物を合成するとともに、理論計算化学を用いて結合解離エネルギーを計算することにより、各触媒の反応性がある程度予測でき、有機ラジカル触媒としての活性評価を行った結果、触媒骨格にフッ素原子を導入したフッ素置換型NHBI触媒がベンジル位の水素引抜き能力に優れていることを明らかにすることができた。さらにアンモニウム型の触媒を用いると、アルデヒドの直截的なアシルラジカル形成を経由するフッ化アシルへの変換反応が起こることを見出した。これらに実験化学と平行して、ラジカル触媒反応系の理論計算による触媒反応の遷移状態の解析を進め、幾つかの興味深い結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、N-オキシラジカルの触媒活性種としての新たな側面を引き出すべく、独自の分子設計指針に基づくデザイン型有機ラジカル分子の創製及びそれらの新規有機ラジカル触媒としての機能開拓に関する可能性を追求した。すなわち、代表的なN-オキシラジカル前駆体であるN-ヒドロキシフタルイミド(NHPI)を用いる触媒反応をモデルとして、得られたNHBI誘導体が想定通りラジカル生成触媒として機能することを確かめた。これと並行して、NHBIの触媒活性の尺度となる酸素ー水素結合の結合解離エネルギーの算出及び分子軌道解析を理論計算によって行うとともに、NHBIの置換基の種類や置換パターンによって結合解離エネルギーがどのように変化するかを分析し、実際の実験結果と照らし合わせた。これらの結果から、モデル反応に最適な触媒構造を明らかにすることで、ラジカル触媒系における系統的な触媒活性評価と、その結果に基づく高性能ラジカル触媒の創製を目指した。有機合成化学における成果としては、アルデヒドから直接、フッ化アシル誘導体への変換反応を構築することに成功し、その後、アルコールやアミンなど様々な求核剤と反応させることにより、合成的に有用な化合物への変換が可能になった。今後は、NHBI構造にルイス塩基性部位を導入し、これをルイス酸とともに水素引き抜き反応に用いることで、高度に分極したルイス錯体構造を有する活性ラジカル触媒による炭素ラジカル生成反応の開発に着手したい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の初年度では、同一分子内にラジカル活性部位となるヒドロキシルアミン構造に加え、複数の修飾可能部位を有する「N-ヒドロキシベンズイミダゾール(NHBI)」を基本骨格とする画期的な分子デザインを採用し、これを有機ラジカル触媒として水素引き抜き反応に用いることで機能評価を行なった。次年度では、その次の段階として、ラジカル活性部位とは別の官能基を同一分子内に有するN-オキシラジカルを合成し、これらが協同的に作用することで実現する精密ラジカル触媒系の構築を目指したい。その先駆的な試みとして、NHBI構造にルイス塩基性部位を導入し、これをルイス酸とともに水素引き抜き反応に用いることで、高度に分極したルイス錯体構造を有する活性ラジカル触媒による炭素ラジカル生成反応の開発に着手したい。また、このルイス酸を基質への選択的配位にも利用することで、より高度な反応系を構築したい。この戦略により、水素引き抜き能の重要な決定因子であるラジカル極性効果を最大限に利用することで、特定の炭素ー水素結合からの水素引き抜きにおける遷移状態のみを安定化し、従来のN-オキシラジカルを用いた反応系では不活性な位置からの水素引き抜きや、特異な化学選択性の発現が期待できると考えている。さらに、柔軟な構造修飾が可能なNHBIと種々のルイス酸を組み合わせるモジュール性の高いラジカル触媒システムを構築することで、天然物等の複雑な化合物にも適用可能な有用分子変換反応の確立を目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度の終わり頃になって、研究の進み具合によって消耗品などの購入費がかさんでしまったが、これらは次年度にも使用するため、全体の研究期間においては支障はないと考えている。
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