研究課題/領域番号 |
20K21194
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
久保 孝史 大阪大学, 理学研究科, 教授 (60324745)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 炭素ー炭素結合 / 2Å / 共有結合 / 超結合 |
研究実績の概要 |
炭素原子間に形成される共有結合は、有機化学において最も基本的で重要な概念である。最近、単結合長の限界とされていた1.8Åを超える炭素-炭素単結合を持つ化合物が複数単離され、限界を超えた単結合が示す性質に注目が集まっている。本研究は、2Åを超える炭素-炭素単結合をもつ化合物を創出し、その特殊な結合状態の電子構造の解明と新たな反応性・物性の探索を通じて、有機化合物の新たな可能性を引き出すことを目的とする。その目的を達成するために、本研究では研究を、①長い結合を持つ化合物の基本骨格の確立、②長い結合の電子構造の解明、③長い結合の共役の構築、④長い結合による新現象の探索、の4つの段階にわけ、遂行する。 2020年度は、長い結合を生み出す基本ユニットであるビスフルオレニルメチリデンをブタジインで二つ接続させた分子の合成に挑んだ。市販化合物から多段階合成により、目的化合物の前駆体であるジヒドロ体の合成・単離、および結晶構造解析に成功した。この前駆体から水素原子を引き抜くことで目的化合物の単離を試みたが、構造不明物が得られるのみであった。そのため、強塩基でプロトンを引き抜きジアニオン種を発生させたのちに、二電子酸化させて目的化合物へと導く方法に変更した。実際にジアニオン種の発生に成功し、NMR測定と単結晶X線構造解析により、その構造の確認を行った。続いて、ジアニオン種の二電子酸化を試みたが、モノラジカル種の発生はESR測定により確認できたが、目的化合物の単離には至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の目標は、長い結合を生み出す基本ユニットを分子内に複数個存在させることで、長い結合間の相互作用を調べることのできる分子を設計・合成することであった。そこで、シンプルな接続ユニットとしてアセチレン骨格を選択し、長い結合を生み出す基本ユニットを2つ接続させることにした。 市販化合物から多段階合成により、目的化合物の前駆体であるジヒドロ体の合成・単離、および結晶構造解析に成功した。この前駆体から水素原子を引き抜くことで、目的化合物の単離を試みたが、残念ながら構造不明物が得られるのみであった。そのため、強塩基でプロトンを引き抜きジアニオン種を発生させたのちに、二電子酸化させて目的化合物へと導く方法に変更した。実際に、ジヒドロ体をTHF溶媒中でカリウムtert-ブトキシドと反応させてジアニオン種を発生させた。1HーNMR測定と単結晶X線構造解析により、その構造の確認を行った。負電荷は分子全体に非局在化していたが、一部のフルオレニル環は自由回転しているのではなく、回転障壁があることがNMR測定から明らかになった。興味深いことにこのジアニオン種は、DMSO溶媒中では空気中でも長時間安定に存在することが分かった。 さらに、ジアニオン種の二電子酸化を試みたが、モノラジカル種の発生はESR測定により確認できたが、目的化合物の単離には至っていない。今後は、酸化反応の条件検討を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
ジアニオンから二電子酸化により目的の中性化合物を得る反応の条件検討を引き続き行う。酸化剤や溶媒、あるいは反応温度を変えることにより、目的化合物の単離を試みる。単離に成功したのちは、X線構造解析により、結合の長さを明らかにする。また、電子吸収スペクトルやラマン分光測定を用いて、長い結合間の相互作用の実験的に明らかにする。さらには、高精度の量子化学計算を行い、電子構造の解明につなげる。 アセチレン骨格以外のリンカーを持つ分子の合成も試みる。現時点では、ベンゼン、アントラセンなどの芳香族化合物を用いることを想定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、学会での成果発表のための旅費の予算を確保していたが、新型コロナ感染症の影響により、オンサイトでの学会がすべて延期または中止になったので、その予算を使うことができなかった。次年度に状況が改善すれば、繰り越し分を旅費として使用する予定である。
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