| 研究実績の概要 |
本研究の目的は、有機リン化合物を遷移金属触媒の代わりに用い、遷移金属特有の酸化的付加、還元的脱離などのレドックス過程をリン上で進行させ、リンのレドックスを活用する触媒反応を開発することを目指している。これまでの検討により、電子不足アルキンおよび酸フッ化物を三級ホスフィンの存在下で反応させることで、酸フッ化物由来のアシル基とフッ素基がアルキンに付加するアシルフルオロ化反応が進行することを見出している。この反応は、５配位のフルオロホスホラン中間体を経由して、リン上での形式的な酸化的付加、還元的脱離が起こっていることを、計算化学、実験化学的に検証した。さらに、この反応系にシリルエノールエーテルを加えることにより、３成分カップリングが進行し、1,3-ジエン誘導体が得られることも見出した。この反応は、アルキンに対してシリルエノールエーテルのβ位のC-H結合が付加するヒドロビニル化反応という形式の反応であるが、形式的に電子不足アルキンのα位へ付加が起こっており、潜在極性の観点から興味深い位置選択性で反応が進行している。詳細な理論系の結果、５配位フルオロホスホランとエノールシリルエーテルとの間でのトランスメタル化というリン上での過程を経て進行することを明らかにした。モデル化合物を用いた実験でもリン上でのトランスメタル化という過程が起こりうることを実証した。さらに、シリルエノールエーテル以外のケイ素求核剤とのトランスメタル化が進行する例も見出しており、５配位フルオロホスホランの反応性を明らかにした。
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