研究課題/領域番号 |
20K21197
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
安倍 学 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 教授 (30273577)
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研究分担者 |
森岡 徳光 広島大学, 医系科学研究科(薬), 教授 (20346505)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 2光子励起 / 生物活性物質 / オキセタン / 付加環化反応 |
研究実績の概要 |
本研究では,近赤外2光子励起を用いた1細胞内で生物活性物質をin-situ合成する手法の開発に挑戦し,生命現象の解明と新治療法の開発につながる究極のドラッグデリバリーシステムの構築を目指す萌芽的研究を実施する.2020年度の研究では,生物活性部位として知られているオキセタン環を効率よく合成できる光[2+2]付加環化反応に着目した.この反応では,反応基質として,カルボニル化合物とアルケンを用いるが,まず,近赤外の2光子に感応する芳香族カルボニル化合物を量子化学計算で設計し,合成して,その光物性を調査した.量子化学計算によって,我々が以前に開発した近赤外領域に高い2光子感応性をもつ1-(4-(benzofuran-2-yl)phenyl)骨格にカルボニル基を導入した1-(4-(benzofuran-2-yl)phenyl)ethan-1-one (1) が,810 nm付近に500 GM程度の2光子吸収能を有していることが判明した.そこで,1を合成し,その光吸収特性を測定した.その結果,1は,420 nm付近に1光子吸収最大波長を有していることがわかった.まず,1光子励起で,アルケンとしてフランを用いたモデル反応で確認した.その結果,1の最安定励起状態がpp状態であるため,アルケンとの反応が遅いことが判明した.この実験結果は,1-(4-(benzofuran-2-yl)phenyl)骨格へのカルボニル基の導入位置を変更する必要があることを示している.そこで,基本骨格の3位にカルボニル基を導入した1-(3-(benzofuran-2-yl)phenyl)ethan-1-one(2)の量子化学計算を行ったところ,若干短波長側ではあるが,740 nm付近に350 GM程度の2光子吸収能を有していることが判明し,npが最安定励起状態であることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,近赤外2光子励起を用いた1細胞内で生物活性物質をin-situ合成する手法の開発に挑戦し,生命現象の解明と新治療法の開発につながる究極のドラッグデリバリーシステムの構築を目的としている.この目標達成のためには,まず,近赤外の2光子に感応する反応基質のデザインと合成,及び,その最安定励起状態を含む光物性の調査が必要である.2020年度は,まず,研究の第1目標である2光子感応性のカルボニル化合物の設計から始めた.候補化合物はこれまでの研究から選別し,近赤外領域に感応する基質であることが判明した.また,その気質の合成も達成し,光物性の調査も行うことができた.その結果,今後の検討事項が明確になった.これらのことから,「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要にも記したように,2020年度の研究では,1-(4-(benzofuran-2-yl)phenyl)ethan-1-one (1) が,810 nm付近に500 GM程度の2光子吸収能を有していることが判明した.しかしながら,1光子励起でのフランとのモデル反応では,1の最安定励起状態がpp状態であるため,アルケンとの反応が遅いことが判明した.この実験結果は,1-(4-(benzofuran-2-yl)phenyl)骨格へのカルボニル基の導入位置を変更する必要があることを示している.そこで,基本骨格の3位にカルボニル基を導入した1-(3-(benzofuran-2-yl)phenyl)ethan-1-one(2)の量子化学計算を行ったところ,若干短波長側ではあるが,740 nm付近に350 GM程度の2光子吸収能を有していることが判明し,npが最安定励起状態であることがわかった.今後の研究予定としては,この2の合成とその光物性を精査し,まず,試験管内での生物活性物質のオキセタン誘導体の近赤外2光子による合成を実現する研究を推進する.2光子反応がうまく行かなかった場合は,量子化学計算によってカルボニル基の位置を変更した基質を再設計し,光アンテナ部位の調整を行う.細胞毒性の結果も取り入れながら,細胞内での生物活性物質の合成に挑戦する.
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次年度使用額が生じた理由 |
残額の291円で購入できる研究材料がなかったため,次年度に持ち越した.
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