研究課題/領域番号 |
20K21199
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
柳 日馨 大阪府立大学, 研究推進機構, 特認教授 (80210821)
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研究分担者 |
兵藤 守 大阪府立大学, 研究推進機構, 特認准教授 (30548186)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 超微量有機合成 / ドロップレット / マクロバッチ反応 / 異相系媒体 |
研究実績の概要 |
本研究ではマイクロ空間における液滴 (ドロップレット) を反応容器と見立て、その中で有機合成を行う超微量合成法を確立し、それを機能評価や連続フロー反応などへ適用する新しい『超微量有機合成』の分野を開拓する。反応に使用できる一般的な有機溶媒とそれと混ざらないフルオラス溶媒であるガルデンを用い、ガルデン送液中にレオダインインジェクターから有機溶媒を10μL程度導入し、ガルデンの中にドロップレットが一つ浮いている状態である単独ドロップレット、また、シリンジポンプで有機溶媒およびガルデンを連続的に送液し、等間隔で均一のサイズのドロップレットを連続的に送液する連続ドロップレットの形成に成功した。 次いで、このドロップレット中にて実際に有機合成反応を行うことができるかを調査した。単独ドロップレットに関してはシクロペンタジエンと無水マレイン酸で行う Diels-Alder反応や光触媒を用いるC―H結合のオレフィンへのラジカル付加反応などを実施した。これらの反応のスケールは、単独ドロップレットの場合は20μmolと超微量反応である。いずれの場合もバッチ反応と変わらない効率で反応は進行した。このことからガルデンのような不活性な溶媒中で形成させたドロップレットは擬似的な超微量バッチ反応装置として使用できることを示した。連続ドロップレット反応では擬似フロー反応とみなすことができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は超微量有機合成の達成を、ドロップレット内で有機化学反応が実現可能かどうかを複数の合成反応について検討した。まず、ドロップレットが安定的に形成可能かどうかを観察するため、ドロップレットとしてトルエン、THF、DMFなどの溶媒を、異相系媒体としてフルオラス溶媒であるガルデンを用意し、シリンジポンプからミキサーを介して送液、混合しどのようになるかを調べた。その結果、適切な流速を割り振ることで概ね均一な大きさのドロップレットを均等な感覚で送液することができた。 次いで、ドロップレット内で有機反応を行うことを試みた。ドロップレット内で反応を行うためには反応し得る試薬を含んだ二つのドロップレットが異相系媒体内で融合して混ざらなければならない。しかし、普通にドロップレットを送液すると、流路内を等間隔で進めためいつまで送液しても出会うことはない。この問題を解決するため、新規に重力ドロップレット反応装置を考案した。先程の段で述べたように一般的な有機溶媒は現在、異相系媒体として使用しているガルデンよりも密度が低いため上方向へ進むときは実際の流速よりも速く、下方向へ進むときは実際の流速よりも遅く進み、ある程度より遅い流速ではガルデン中に浮いて進まなくなるという現象を発見した。我々はこの機能を利用し、逆U字型の流路を用意し、反応し得る2種類のドロップレットを連続で導入し、ガルデンに乗せて送液すると先に導入したドロップレットが頂点近くで進行を止め、後からきたドロップレットと融合することを観察することができた。 次に、この重力ドロップレットシステムで Diels-Alder 反応やカルボン酸のアミド化反応を実施し、バッチ系やフロー系などと遜色ない変換率で反応が進行することを確かめることができた。これらのことからドロップレットは超微量有機合成の「反応容器」として有望であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
我々はここまで単独および連続ドロップレットの形成、送液、さらにそれぞれのドロップレット内での有機反応をDiels-Alder反応とカルボン酸アミドの合成反応を実施し、それぞれ成功させた。今後はこれらの反応例を増やし、一般性の確認とともに、成果として論文発表したい。それと並行してドロップレット内での反応がバッチ反応やフロー反応と比較してどのような反応性を示すかを詳細に検討する。特にドロップレット反応と連続フロー反応の結果との相関を検討する。この研究が進展すればドロップレット反応の結果は連続フロー反応のシミュレーションとして有効に機能する可能性があり、インパクトが大きい。また微細空間で反応を有利にする効果についても検証する。例えば内部循環流の影響による攪拌効率の増大による収率の向上、極小反応における効率的な除熱による選択性の向上、光反応効率など、ドロップレット特有の反応効果が存在する可能性があり、反応事例を増やすことでこのような現象を多く観測できるようにしていく。
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