有機合成の目的は有用物質の合成とそれを与える有用反応の開発にあるが、その反応スケールに関してはあまり関心が持たれてこなかった。本研究ではマイクロ空間における液滴 (ドロップレット) を反応容器と見立て、その中で有機合成を行う超微量合成法を検討し、それを機能評価や連続フロー反応などへ適用する新しい『超微量有機合成』の分野の開拓につなげることを目的とし萌芽研究を実施した。昨年度はイオン液体やフルオラス媒体などの異相系媒体に囲まれた単独及び連続ドロップレットを形成することに成功するとともに、これを用いた有機合成反応を行い、Diels-Alder反応をモデルとして目的物を得ることを示すことができた。本年度はドロップレット反応の更なる発展を目指して、様々な有機合成反応に取り組んだ。極微量スケールとなるドロップレット反応システムでは光化学反応において透過光の減衰を抑えることができる。そこで、単独ドロップレットを用いる光触媒反応のシステムを検討し反応の高い効率性を確認した。たとえば、良好な収率で360nmの光照射条件にてテトラキス(テトラブチルアンモニウム)デカタングステートを光触媒としてγ-ブチロラクトンとフェニルビニルスルホンのC-C結合形成反応を行ったところ、10分という短時間でC-H結合をC-C結合へ変換することができ、γ―フェニルスルフォニルエチル-γ-ブチロラクトンを良好な収率で得た。これらの反応は 10μmolスケールで行うことができる。これと対比させるためにバッチ系で同様の反応を1mmolスケールで行った時には 24 時間の光照射を必要としたため、ドロップレット微細反応空間において反応率が著しく向上したものと考えられる。この時、内部循環流でドロップレット内が効率的に混合されることを確認した。
|