キラル配位子を有する希土類錯体は円偏光発光を示し、その発光の異方性因子が大きいものほど左右円偏光の偏りが大きくなる。その異方性因子は希土類錯体の電気双極子遷移と磁気双極子遷移の内積が関与する。この内積について評価するため、新しく数種類のキラル型希土類錯体を合成し、それらのX線構造解析と円偏光発光機能の評価を行った。 X線構造解析のデータから希土類錯体の構造情報を抽出し、量子計算を専門としている研究室との共同研究により希土類錯体のLMCT(Ligand-to-metal charge transfer)バンドの遷移双極子モーメントの計算を行った。この計算によって、希土類錯体の対称構造の主軸と双極子モーメントの角度差を見積った。これにより、電気双極子遷移の角度依存性について初めて評価をできるようになった。 見積もられたLMCTの角度と円偏光機能は良い相関を示し、本研究の推進により初めて円偏光発光のLMCT遷移の関与が明らかになった。本研究により円偏光発光の効率を高めることができる因子を初めて解明することに成功した。本研究成果は希土類錯体の配位座標だけでなく、有機配位子の電子構造や遷移モーメントを量子化学の立場から解析し、そのデータを基盤として円偏光発光機能の子でまで明らかになっていなかった因子が初めて明らかになった。この萌芽研究がきっかけとなり、円偏光発光を示す新しい分子設計を提案できるようになった。本研究成果は今後の偏光機能材料の設計に大きく貢献していると言える。
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