研究課題/領域番号 |
20K21204
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
南 豪 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (70731834)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 有機トランジスタ / 光学マイクロアレイチップ / パターン認識 / ポリチオフェン / ククルビット[n]ウリル |
研究実績の概要 |
本研究では,パーキンソン病治療薬を対象とした薬物の濃度情報を可視化するセンサチップの開発および機械学習を導入した情報解析システムの構築に挑戦する.パーキンソン病の治療薬は副作用として突発的睡眠を引き起こす疑いがあり,服用中の医薬品から発症した症状による自動車事故の最も多い原因であるため,それらの定量的検出は意義深い.そこで,同一の機能性π共役性高分子を用いて1) 小型光学マイクロアレイチップの開発および,画像パターン認識による手軽な情報解析システムの構築,2) 有機トランジスタ型センサの創製と薬剤分子の電気的検出を行う.マイクロ蛍光アレイチップの作製において,高分子センサを担持させる基体にヒドロゲルを採用する.ヒドロゲルを使用することで,持ち運び可能,洗浄による繰り返し使用可能なセンサチップを作製することができる.電気二重層キャパシタを活用したπ共役系高分子材料への高密度・静電的キャリア注入を駆動原理とする電解質ゲート型有機トランジスタ型センサは半導体界面で生じる分子認識現象の鋭敏な読み出しを可能とする. パーキンソン病患者に対して処方される中枢神経系の治療薬は,血液脳関門を通過させるため,脂溶性を高める目的でかさ高い分子構造をとる.大環状化合物であるククルビットウリル [n] (CB[n] (n = 6, 7, 8)) は疎水性の環状空間と,それとは対照的なウレイド基による高い極性を兼ね備える開口部から構成され,環径に応じた様々なサイズの分子の包接を可能とする.すなわち,薬剤分子の極性と分子サイズの2つのパラメータによるホストーゲストが期待できる.本申請では,当該レセプタを導入するπ共役性高分子にポリチオフェン (PT) を用いて,デュアルリードアウトセンサのプラットフォームとして採用した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,同一のポリチオフェン誘導体を用いて,光学マイクロアレイチップと有機トランジスタ型センサを作製し,両者のセンシング能評価を行った.光学センサアレイの場合,高分子センサの凝集による自己消光を抑制するため,ヒドロゲルを使用してセンサの分散化を図った.ヒドロゲルに担持されたポリチオフェン誘導体は,水溶液中に含まれる標的種を捕捉すると蛍光特性は変化する.従って,本研究では,小型の蛍光センサアレイチップ上で変化するの蛍光応答変化をCCDカメラで撮影し,機械学習を含むケモメトリクス技術を駆使した画像パターン学習による定性・定量分析を試みた.本手法により,分光器を用いなくとも標的種の定量分析を達成した.続いて,同一の高分子を半導体として活用し,有機トランジスタ型センサの作製を行った.当該材料を電解質ゲートトランジスタに組み込むことで,有機半導体/電解質界面で生じる標的種の捕捉を有機トランジスタの特性変化として読み出すことが出来る.すなわち,高感度での検出が可能となる.この取り組みによって,同一の高分子材料を用いたデュアルリードアウトセンサのプラットフォームの確立を達成した. 上述に平行して,脂溶性薬剤を捕捉するCB[n]を賦与したポリチオフェン誘導体の設計・合成も進めている.従って,全体を通して,順調に進展していると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
現在進行中のポリチオフェン誘導体の合成が終わり次第,材料自体の物性評価並びに脂溶性薬剤に対する分子認識能調査を進める.薬剤検出はポリチオフェン誘導体の光学特性を活かして,UV-visと蛍光スペクトルによる評価を行う.ここでは,CB[n]の環サイズと標的種の構造の違いによる様々な光学特性 (スペクトル変化) から物理的パラメータを算出し,パターン認識に向けた指紋パターンの作成を行う.続いて,ガラスチップの作製を進め,画像分析による薬剤検出に取り組む.ここでは,画像分析による結果と分光器を用いた実験より算出した物理的パラメータを照らし合わせて,液相ないし固相状態での分子認識能の違いを比較・検討する. 同時に,当該材料を有機デバイスに組み込むため,半導体成膜条件を検討する.かさ高いCB[n]を修飾したポリチオフェン誘導体を用いるため,半導体膜のモルフォロジーや表面形状を多角的に評価するため,顕微鏡観察やAFM画像などを取得し,CB[n]の環サイズが与える半導体の膜質への影響も調査する.本調査が終わり次第,有機トランジスタ型センサを用いて薬剤の検出を行う.ここでは,検出限界や応答時間などを比較項目として設定し,上述の光学センサチップとのセンシング能を比較する.
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備考 |
Nanoscale:inside front cover, ACS Applied Bio Materials:cover, Nanoscale Emerging Investigators 2021 に選定
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