前年度は,パーキンソン病治療薬の検出を目指して,大環状化合物を修飾したポリチオフェン誘導体の合成を中心的に進めた。それと並行して,分子鋳型ポリマー (MIP) を導入した化学センサの作製に取り組んだ。パーキンソン病治療薬のアトロピンは,副作用として幻覚や記憶障害を引き起こすためにその検出は意義深い。当該薬剤はラセミ体の市販薬であるが,(S)-ヒヨスチアミンのみが薬効を示す。創薬分野における光学純度 (ee) の厳格な制約を鑑みても,光学純度の決定は極めて重要であることから,ee決定を可能とする化学センサの開発を目指すこととした。検出部として採用したMIPは,モノマーに標的分子を混ぜ込み重合することで,効率良く分子の形・サイズ空間を形成することができため,標的種に対して高選択的な人工分子認識場となる。本研究では,(S)-ヒヨスチアミン検出用に設計・合成したMIPを有機トラジスタのゲート電極に固定化して,小型の化学センサを作製した。有機トラジスタは,半導体部位がπ共役高分子材料で構築されており,分子認識部位を適切に賦与することで化学センサのプラットフォームとなり得る。MIPを賦与した有機トラジスタ型センサは,(S)-ヒヨスチアミンの濃度増加に伴うトランジスタ特性の変化を示し,得られた飽和曲線は定量的な標的薬剤検出を示唆した。続いて,7種の(S)-ヒヨスチアミンの類縁体を選定して,本センサの選択性を調査したところ,当該種に対して選択的な応答を示すことが明らかとなった。続いて,当該センサを用いて本薬剤の光学純度決定を実施したところ,当該種の%ee値の増加に伴う定量的なトランジスタ特性の変化を観測し,小型センサを用いて簡便なee決定に成功した。すなわち,人工分子認識材料とπ共役高分子を組み合わせたセンサ設計が,薬剤分析用デバイスの具現化において有効的アプローチとなることが示唆された。
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