「パラジウムラジカル種」は、従来合成されてきた安定酸化状態の0価と+II価の中間酸化状態にある奇数電子種である。10族遷移金属のうち、3d金属であるニッケルが安定なNi(+I)単核ラジカル種を容易に与え、その化学が古くから研究されてきた事とは対照的に、4d金属であるパラジウムの単核Pd(+I)種については、その合成・単離は極めて困難とされてきた。本研究では、単核Pd(+I)ラジカル種を安定に生成するための新たな配位子設計指針を見出して単核Pd(+I)ラジカル錯体の合成・単離方法を開発し、Pd(+I)ラジカル種の幾何構造を解明することを目指して研究を進めた。さらに、単離・合成した単核Pd(+I)ラジカル錯体の反応性を明らかにして、Pdラジカル触媒を合理的に構築するための錯体基盤を開発することも目指して研究を進めた。 種々の二座キレートホスフィン配位子を用いてPd(+I)ラジカル種を安定化する試みをおこなった。種々の二座ホスフィン配位子を有するPd(+II)とPd(0)錯体を用いた均化反応を系統的に調査した結果、典型的な大バイトアングル型配位子であるXantphosおよびDPEphosを用いた場合に、安定な4配位Pd(+I)種を与えることを明らかにし、単離することに成功した。さらに、初めて4配位Pd(+I)単核錯体の単結晶X線構造解析に成功し、歪んだ四面体構造をとることを見出した。さらに、合成した単核Pd(+I)錯体の反応性の検討もおこない、ラジカル型の反応性を示すことも見出した。
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