研究実績の概要 |
水素には3種の同位体が存在する。これらの同位体を効率的に分離する手法の開拓は、基礎から応用まで多岐にわたる研究領域に波及する極めて重要な課題である。本研究では、包摂空間内に化学結合サイトを有する分子をホストとして用い、包摂空間ならびに化学結合サイトの化学的性質を緻密に制御することにより、水素イオン同位体の精密認識を試みた。具体的には、Hbpp(3,5-bis(pyridyl)pyrazole)の誘導体と2種類の金属イオン(MならびにM’)とにより構成される包摂空間を有した異種金属5核錯体([M3M’2(O)(bpp)6]n+)を用いた。赤外吸収分光分析、紫外可視吸収分光分析、エレクトロスプレーイオン化質量分析、単結晶X線構造解析、電気化学解析を駆使することにより、この異種金属5核錯体の内部に存在する3つの金属イオン(M)で架橋された酸素原子が、水素イオンに対する化学結合サイトとして機能することが見出された。また、この異種金属5核錯体の水素イオン授受能について更なる調査を行ったところ、(1)水素イオンの授受が系中のpHとは独立して進行する、(2)金属イオンMの種類により水素イオン授受能が変化する、(3)金属イオンMの酸化数変化に応じて水素イオン授受能が変化する、(4)重水素イオンと比較して水素イオンがより選択的にその構造内に取り込まれる、など複数の興味深い現象の観測に成功した。特に、(4)は、水素の3種の同位体を効率的に分離する手法の開拓につながる重要な研究実績であると認められる。
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