研究課題/領域番号 |
20K21210
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
持田 智行 神戸大学, 理学研究科, 教授 (30280580)
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研究分担者 |
桑原 大介 電気通信大学, 研究設備センター, 准教授 (50270468)
藤森 裕基 日本大学, 文理学部, 教授 (80297762)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | イオン液体 / 配位高分子 |
研究実績の概要 |
本課題では、イオン液体を素材とする、柔軟性を持つ低融点配位高分子の開発を目的とする。昨年度までに、イオン液体とシアノ系アニオンを含む塩の反応によって、一連のアニオン性配位高分子を合成し、これらの塩が比較的低温で分解融解挙動を示すことを明らかにした。本年度は、詳細な分光学的および熱力学的検討を行うことによって、この特徴的な融解現象の機構解明を進めた。ここでは、得られた物質のうち最も低融点であったイミダゾリウム系イオン液体含有物質を選び、高速熱測定、ラマン分光、およびX線回折を適用して、その融解凝固過程を詳細に検証した。第一に、分解融解後に生じる液相と固相の組成を分析し、この分解融解現象が、融点におけるイオン液体成分と塩の相分離に由来することを明らかにした。すなわち、この系で分解融解が生じるのは、イオン液体に対する溶解度が低い塩を含むことが原因であることがわかった。第二に、高速熱測定を用いて、冷却速度と結晶化度の相関を検証した。これらの物質を融解状態から冷却すると、通常の条件下では必ず不均一な固液混合物を生じたが、極めて早い冷却速度のもとではガラス化が起こることを見出した。このように、本系でアモルファス形成ができることを実証した。第三に、溶融物を冷却して生じた不均一混合物は、放置すると徐々に結晶性の向上を示したが、この過程では、イオン液体と固体成分の反応が常温で進み、元の配位高分子の多結晶が再構成されることがわかった。この結晶再構成は自己修復的な現象ともみなせ、イオン液体成分を含むことに由来する特徴的な現象である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナウイルスの影響によって、研究活動を縮小せざるを得ない状況が続いた。そのため、着実な成果は得られているものの、当初の想定に比べると研究の進行は遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、イオン液体含有配位高分子の系統的開発に成功したが、この系では必ず分解融解が生じて不均一な融体が生じるため、膜形成には不利である。今年度の結果から、イオン液体への溶解度が大きい塩を構成物質として用いると、通常の融解を起こすと予想される。そこで、この方針に基づいた物質設計を行い、配位高分子合成を進める。これらの構造および融解過程を検証し、アモルファス配位高分子の形成を試みたうえで、膜形成能および自己修復性を検討する。あわせて、それらのイオン伝導性を検討する。また、イミダゾリウム系以外のイオン液体を含む配位高分子の融解過程および結晶化・ガラス化過程の検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの影響によって研究に遅れが生じたため、実験に使用する試薬・器具および発表にかかわる費用が当初計画より少額となった。これらの実験および外部発表は次年度に行う予定であるため、全体の使用計画に大きな変更はない。
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