研究課題/領域番号 |
20K21215
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
相良 剛光 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (60767292)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | メカノフォア / ロタキサン / 超分子 / エネルギー移動 / FRET / 刺激応答性発光材料 |
研究実績の概要 |
近年、機械的刺激に応答して様々な応答を示す「メカノフォア」と呼ばれる分子骨格が盛んに研究されている。最近我々は、機械的刺激により共有結合を切断することなく発光特性が変化する「ロタキサン型超分子メカノフォア」の開発に成功した。本申請研究では、この超分子メカノフォアの機能拡張の第一歩として、蛍光共鳴エネルギー移動機構を分子設計に組み込むことにより、赤色蛍光を完全On/Offスイッチするロタキサン型超分子メカノフォアを創製することを目指している。 研究初年度は、まず効率の良いエネルギー移動が起きるようなエネルギードナー部位とアクセプター部位の選定を行った。具体的には、緑色蛍光団である9,10-bis(phenylethynyl)anthraceneをドナー、赤色蛍光団としてπ共役を拡張したBODIPY誘導体をアクセプターとして用いることにした。この蛍光団の組み合わせでは、励起光として480 nm の励起光を用いれば、ほぼ選択的に緑色蛍光団のみを選択できることが明らかとなった。次に、二つの蛍光団をロタキサンの分子構造に導入した超分子メカノフォアを設計・合成した。溶液中では、緑色蛍光団のみを選択的に励起する励起光を照射したところ、ほとんど赤色蛍光は観察されず、緑色蛍光団から赤色蛍光団へのFRETよりも、緑色蛍光団から消光団への光誘起電子移動が優先して起きていることが分かった。さらに、得られた超分子メカノフォアをポリウレタンに導入したところ、機械的刺激に応答して赤色蛍光の強度変化が起きることが分かった。しかし、初期状態での赤色蛍光強度がいずれの場合においても大きいため、次年度での改善が必要であることも同時に明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度はまず効率の良いエネルギー移動を誘起するために必要となるエネルギードナー、およびアクセプターの分子骨格をうまく選定できた。種々の検討の結果、9,10-bis(phenylethynyl)anthraceneをドナー、π共役を拡張した赤色蛍光団であるBODIPY誘導体をアクセプター部位として用いれば、480 nmの励起光により赤色蛍光団をほとんど励起することなく、緑色蛍光団を選択的に励起できることが明らかとなった。さらに、適切な長さのリンカーを介してこれらのドナー部位・アクセプター部位を連結することで、同じ励起光を用いてほぼ赤色蛍光のみが観察されるという知見を得た。これは効率の良いFRETが起きていることに他ならない。 次にこれらの蛍光団をロタキサンの分子骨格に導入した超分子メカノフォアを複数設計・合成した。いずれの場合においても溶液中では、緑色蛍光団のみを選択的に励起する励起光を照射したところ、ほとんど赤色蛍光は観察されず、緑色蛍光団から赤色蛍光団へのFRETよりも、緑色蛍光団から消光団への光誘起電子移動が優先して起きていることが分かった。さらに、超分子メカノフォアに導入した水酸基を用いてポリウレタンに導入し、溶媒キャスト法を用いて製膜し、dog-bone型に切り抜き、測定サンプルを得た。得られたポリウレタンフィルムを延伸したところ、伸縮に応じて赤色蛍光の強度変化が起きることが分かった。しかし、初期状態での赤色蛍光強度がいずれの場合においても大きいため、次年度での改善が必要であることも同時に明らかとなった。 このように初年度ではFRET機構を導入した超分子メカノフォアを複数作製することに成功しており、その評価法も確立することができた。そのため、「当初の計画以上に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
初年度において明らかとなった課題は、緑色蛍光団と赤色蛍光団を導入したロタキサン型超分子メカノフォアが溶液中では赤色蛍光はほぼ示さないが、ポリウレタンに導入した後は無視できない強度の赤色蛍光を示すことである。力を印加していない状態での赤色蛍光の初期値が大きいため、得られたフィルムを延伸しても大きな蛍光強度変化が観察されない。これは、環状分子が消光団から離れた位置にトラップされている割合が増えたためである。様々な分子構造を持つ超分子メカノフォアを合成した結果、環状分子の大きさ自体が原因であるのではなく、赤色蛍光団と緑色蛍光団がスタックしてしまっていることが原因であることが示唆される結果が得られた。そして、超分子メカノフォアの構造を多様に変化させても、初期状態での赤色蛍光の大きさは大きく改善されないことも明らかとなった。 そこで次年度の研究では、主にポリマー自体の構造に主眼を置いて研究を進める。導入するポリマーをポリウレタンからポリアクリル酸メチルやその他ブロックコポリマーなどに変更し、ポリマー中で蛍光団同士がスタックしないポリマー構造を探索する。力を印加しない状態での赤色蛍光強度を大きく抑えることができるポリマーを見つけたら、そのポリマーを用いて、機械的刺激に対する応答能を精査する。具体的には引張試験機と、小型蛍光光度計を同時に使用することにより、蛍光特性変化と応力測定を同時に行う。
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