当該年度は、主に2つの研究項目に取り組んだ。 1)超分子キラリティの光反転:この研究項目は,2次核形成と呼ばれる結晶の表面でさらなる結晶が形成されやすい現象を利用して同一キラルアゾベンゼン分子を用いた超分子キラリティーの完全反転法の確立を目的としている。前年度の研究において、温度変化による自己集合過程に対し、たんぱく質の凝集理論モデルを適応することで、本超分子集合体において2次核形成が起こっていることが明らかになったが、光によって誘起される自己集合に関しては、2次核形成の証明が達成できていなかった。そこで今年度は、この項目に注力して実験を行った。装置の改造等の技術的に困難な部分が多かったが、実験系を立ち上げることに成功した。詳細な測定の結果、光を用いて自己集合を開始した場合においても、2次核形成によって準安定な集合体が形成されることが明らかになった。
2)超分子キラリティー増幅の階層依存性:リングからナノチューブへと階層的に自己組織化するキラルアゾベンゼン分子を用い、エナンチオマー対を異なる比で混合した際に、超分子キラリティがどの階層レベルで増幅されうるか詳細に検討した。その結果、リングを形成するレベルで非常に大きな超分子キラリティの増幅が観察された。また、リングからチューブになる際はすでに増幅が飽和しているため、それ以上の増幅は観察されなかった。さらにナノチューブを伸長させたところ、片方のエナンチオマーを用いた際は観察された超螺旋構造が、混合物においては観察されなかった。そこでナノチューブを配向させてX線回折測定を実施した。この構造解析データから、混合物からはリング間の相互作用が弱くなることが示唆された。これらの成果を学術論文としてまとめ、アメリカ化学会誌に公開することができた。
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