研究課題/領域番号 |
20K21217
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
植村 卓史 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (50346079)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 多孔性金属錯体 / ポリアセン |
研究実績の概要 |
アントラセンやテトラセンのようなベンゼン環が直線状に縮環したアセン化合物は、高いキャリア移動度を有するため、次世代ナノデバイスの基幹材料として注目されている。アセンは環の個数の増加に従いキャリア移動度が大きくなるため、長いアセン(=ポリアセン)の合成手法の開発が強く求められている。一方、多孔性金属錯体(MOF)は、金属イオンと有機架橋配位子の構成要素を適切に選択することで、細孔構造を原子レベルで緻密に設計できる。そのため、MOFが有するナノ空間を高分子合成の場として用いることで、得られる高分子の構造を精密に制御することが可能である。本研究では、MOFの一次元ナノ細孔を多環芳香族炭化水素の重合場として用いることで、架橋反応を抑制し、これまで合成が不可能のされてきた無置換ポリアセンを合成することを試みた。 高い熱安定性を有するMOFの1次元チャネル空間を反応場とすることで、ナフタレン誘導体を重合した。モノマーのみを加熱した場合、分子間の架橋反応が進行し、構造制御の施されていない枝分かれ構造を有する生成物が確認された。それに対して、MOFから単離した前駆体のIRや13C-NMR、MALDI-TOF MS測定から、MOF細孔内では一次元的に重合反応が進行し、最低でも環が35個連結した前駆体ラダー状高分子が形成されていることが分かった。続いて、得られた前駆体高分子を加熱処理することで、ポリアセンに変換した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまで全くの未踏化合物と言われているポリアセンの合成が可能になってきたため。
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今後の研究の推進方策 |
得られたポリアセンの更なる構造解析と、その電子物性について種々の検討を行う。また、ピレン、ペリレン、ナフタレンなどの炭化水素芳香族やこれらの誘導体をモノマーとすることで、エッジ構造の制御されたグラフェンナノリボン(GNR)の合成を行う。更には、多次元細孔構造をもったMOFの開発を行い、適切なモノマーを用いることで、2次元、3次元ネットワークGNRの作成に着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はMOF細孔内で芳香族モノマーの重合を行い、様々な構造を持つGNRを合成予定であったが、コロナ禍のため予定していた実験をすべて行うことが出来ず、研究計画の調整が必要となった。この事案により、当初の研究計画を変更し、今年度の計画を翌年度まで延長することとし、今年度使用する予定であった200万円を翌年度へ繰り越すこととした。
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