研究課題/領域番号 |
20K21218
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
本多 智 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (10711715)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
|
キーワード | 開環重合 / 解重合 / フェロモン / フェロモントラップ |
研究実績の概要 |
農薬に代わる害虫防除法にフェロモントラップの有効利用がある。従来、ポリエステルなどの易分解性高分子基材とフェロモンを複合化させたフェロモン製剤が開発されてきた。しかしポリエステルの主鎖は、あらゆる箇所でランダムに分解するため意図したタイミングで分解させることや分解性を持続させることが困難だった。この問題に対して本研究では、連続的かつ持続的な高分子の連鎖的分解反応を通じて高分子物質そのものがフェロモンへと変換されるような系の創出を目指し、フェロモントラップの構成要素であるフェロモン製剤と高分子基材をそれぞれ開発することを目的とした。初年度には、一部の生物が情報化学物質として用いる天然物であるγ-ブチロラクトンの開環重合によるポリ(γ-ブチロラクトン)の合成を実施し、重合触媒および重合条件の精査を経て高いモノマー転化率でポリ(γ-ブチロラクトン)を合成することに成功した。一方、粘着剤はフェロモンによって呼び寄せられた害虫を効率的に捕獲する用途に用いられる。そこで粘着剤としての利用実績の豊富なポリジメチルシロキサン(PDMS)を利用して、フェロモン製剤との複合化用の光応答性高分子基材(粘着剤)を作製した。その結果、光刺激によって粘弾性が変化するPDMS粘着剤を開発することに成功した。これらのことから、フェロモントラップの作製に必要なフェロモン製剤および高分子基材をいずれも初年度に作製することができた。そこで次年度には、この光応答性PDMS粘着剤とポリ(γ-ブチロラクトン)との複合化によりフェロモントラップのプロトタイプを製作し、分解生成物の調査およびフェロモン放出速度の制御性に関する調査を進める。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度には、一部の生物が情報化学物質として用いる天然物であるγ-ブチロラクトンの開環重合を試みた。古くからγ-ブチロラクトン(BL)の開環重合は困難であることが知られ、教科書などにも重合できないと書かれている。しかしながら、ごく最近の有機触媒の進展に伴って一部の触媒がBLの開環重合を可能にすることが報告されてきている。本研究では、とりわけ種々の有機触媒を利用したBLの開環重合を実施した。その結果、尿素アニオンを触媒とする開環重合が、高いモノマー転化率でpoly(BL)(PBL)を与えることを見出した。また、条件によっては1万以上の分子量を持つ高分子量のPBLを合成できることが分かった。一方、PBLとの複合化に用いる刺激応答性高分子基材には粘着剤として有効利用されるポリジメチルシロキサン(PDMS)を選んだ。種々の検討の結果、365 nm程度のUV光に応答する光応答性PDMS粘着剤の開発に成功した。このPDMS粘着剤の光応答性については、レーザーポインターなど簡便に入手可能なデバイスでも制御することが出来ることがわかった。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度において、目的とする高分子群の合成に成功したことから、次年度にはフェロモントラップとしての応用を検討することが出来る。フェロモントラップの剤形に応じてポリフェロモンと刺激応答性高分子基材の分子量や応答性に調整を加えることが必須となると想定される。そこで、次年度には分解生成物の調査およびフェロモン放出速度の制御性に関する調査を進める。またこれらの検討の結果を分子のデザインにフィードバックし、より効果的なシステムを構築する。さらに、ポリフェロモンのコンセプトを実証するための、害虫を利用した誘因評価も進める予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究の進展に伴い新たに必要となった備品があった。しかし製造に時間を要するものであり年度内に予算を執行できるかどうかが分からない状況であったため次年度に購入することとした。この当初の想定とは異なる変更があったことから次年度使用額が生じた。新年度になって既に発注を終えており、残りの予算についても計画通りに執行可能である。
|