研究課題/領域番号 |
20K21219
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
高坂 泰弘 信州大学, 学術研究院繊維学系, 准教授 (90609695)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 共役置換反応 / 高分子分解 / 主鎖切断反応 / 無溶媒反応 / ミキサーミル / 結晶性ポリマー / 固相重合 / メカノケミストリー |
研究実績の概要 |
昨年度に,固相における共役置換反応が高分子の結晶領域で遅く,非晶領域~早いことを示す兆候が得られていた.そこで,今年度は種々のカルボン酸を用いて,融点,ガラス転移点および結晶が度が異なるポリマーを合成し,それらの固相共役置換反応における分解挙動を詳しく検討した.融点が50~160度,ガラス転移点が-10~40度のポリマーを合成し,分解挙動を調べたところ,これらの熱物性が分解速度に与える影響は小さいことがわかった.次に,粉末X線回折を用いて結晶化度を評価したところ,ジエチルアミンとの反応開始直後の分解度が,結晶化度と概ね一致することがわかった.ポリマーの力学特性と分解挙動の相関を評価するため,動的粘弾性試験を実施したところ,貯蔵弾性率と分解速度に相関が見られた.しかしながら,分解が早期に完了していることや,ミキサーミルの周波数が初期分解度にほとんど影響しないことから,貯蔵弾性率と分解速度に直接的な相関はなく,両パラメタが結晶化度と相関した結果,間接的に相関関係が見られたと考察した.また,液体アミンを用いた分解は固相反応か界面反応かの判別が難しかったため,固体アミンや酢酸塩を用いた分解も検討した.その結果,完全な固体状態でも問題なく分解が進行することがわかった.すなわち,共役置換反応は固相でも効率的に進行するが,高分子鎖が非晶状態(ゴム状態)にあり,力学負荷により運動性を発現できる状態にあることが重要と結論づけた.また,分解の逆反応に相当する,共役置換反応による固相重合にも成功しつつある.さらに,固相反応は,溶媒不溶なポリマーの合成や分解に有効であることが示唆され,従来技術では到達困難であった化学反応で特に真価を発揮することがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
固相における共役置換反応の性質が明らかになり,どのような反応設計,材料設計において真価を発揮するかが明確になったことから,順調に進捗していると判断した.これらの成果は,最終目標である自己修復材料への展開に必要な基幹情報を含んでおり,次年度への布石としても評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
固相共役置換反応による結合交換が確認できたため,この原理を利用したヴィトリマーの開発を行う.カルボン酸担持型ポリマーを,ガラス転移点が室温以下になるように調製し,本研究で用いたジアクリレート型モノマーを架橋剤として使用することで,ヴィトリマーを作製する.この架橋ポリマーについて,動的粘弾性試験をはじめとする固体物性の評価を行い,ヴィトリマーとしての性質と,自己修復材料への展開を調査する.また,ジメタクリレート型モノマーとジカルボン酸の固相重合が発見されたため,その速度論解析を通じて,重合プロセスとしての特徴を明らかにする.
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