本研究の大きな目的は、散乱実験にほとんど利用されていなかったX線エネルギー領域であるテンダーX線を利用したナノ構造解析手法の拡張である。特にウェット環境での散乱実験の整備を行い、施設装置の高度化と合わせて、その実施例を世界に先駆けて示して行くことである。前年度に、散乱実験特化する試料合成を行い、ウエットな環境でのテンダーX線による散乱測定のための特殊試料セルの開発を行った。本年度も引き続き、試料に関しては硫黄を含んだ試料と、加えて、リン元素を含む高分子試料を調整した。硫黄はスルホン酸基、リンはリン酸基として高分子側鎖に導入し、吸水性のある疎水性成分とのブロック共重合体、およびランダム共重合体とした。ブロック共重合体はポリスチレンをベースにした共重合体であり、ポリスチレン部位をスルホン化しイオン交換膜のモデルとし、詳細構造解析のモデル試料とした。テンダーX線の散乱実験では、空気によるX線の吸収が大きいため、試料回りの環境は真空である必要があり、含水試料中の水が試料から抜け出さないように工夫した試料セルとなっている。完成した試料セルを用いて、散乱実験が可能であることを確認した。ただし、含水試料では長時間同じ位置にX線を照射すると、試料ダメージも大きいことも分かった。試料位置を若干ずらしながら測定することで再現性の高いデータを得られることも確認した。含水状態で、試料中の水存在領域における硫黄元素の分布状態を詳細に解析することが可能であることが明らかになった。リン元素に関しては、リンを用いた異常小角散乱として本実験設備で測定可能かを確認する目的が第一である。アクリレートとビニルホスホン酸とのランダム共重合体を用いて、まずX線吸収分光および蛍光X線分析を同設備で行えることを確認した。これらの結果より、リン元素においても十分に異常小角散乱法が適応できることを確認した。
|