研究課題/領域番号 |
20K21225
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山口 浩靖 大阪大学, 理学研究科, 教授 (00314352)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 超分子錯体 / 非共有結合 / ヒドロゲル / 金属イオン / 架橋 / 特異性 / 凝集 / 接着 |
研究実績の概要 |
外部応力・歪みのエネルギーを効率良く分散でき、分子運動性の高い状態を維持できるような架橋点を設計した。複数種の超分子科学的なを架橋ユニットに用いることで応力の集中を阻止し、高分子鎖同士が可逆的に結合・解離を起こすような材料を合成した。 アクリルアミドを主成分とする水溶性高分子にルテニウムあるいはロジウムの塩化物の水溶液を添加すると、即座に粘性が増大し、高分子と金属種から成るゲル状物質が得られた。このような現象はアルカリ金属・アルカリ土類金属並びに他の多価金属イオンでは見られないことから、ルテニウム・ロジウムイオン存在下で見られる特異的な現象であることがわかった。また、当該高分子のヒドロゲルに対して、同様にこれらの金属イオンを添加するとヒドロゲルの体積が減少する凝集挙動が観察された。当該金属種を含むヒドロゲルと金属種非含有ヒドロゲルを接触させると、これらのヒドロゲルが接着する現象が見られた。金属イオンと高分子側鎖の極性ユニットとの間で水を介して水素結合を形成し、高分子主鎖間が超分子的に架橋された結果であると考えられる。 上記の実験と並行して、色素ポルフィリンまたはその亜鉛錯体と、汎用性コーティング材料であるポリビニルピロリドンとの相互作用を観察した。水溶性色素テトラフェニルポルフィリンスルホネートとその亜鉛錯体のそれぞれの水溶液にポリビニルピロリドンを添加すると、色素の可視紫外吸収スペクトルは等吸収点を伴いながら長波長シフトし、超分子錯体を定量的に形成することを見出した。ポルフィリンの水溶液に可視光線を長時間照射すると色素の分解が起こるが、ポリビニルピロリドン添加系ではポルフィリン環の開裂が抑制されることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
汎用性高分子に金属イオンや金属錯体を添加するだけで特異的に高分子が集積する架橋システムが構築できた。非共有結合を介した超分子ネットワークシステムが実現できた。これらの高分子集積システムの力学的特性を次年度以降評価することで、超分子架橋構造と物性の相関が明確になると期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに合成した超分子材料の物性評価を進めるとともに、さらにこれらの超分子材料の物理的強度を高めるために、さらに水系で強く働く相互作用、π-π相互作用や疎水性相互作用を活用する分子設計を行う。例えば電荷移動錯体形成を利用したり、光照射によって結合形成や解離をさせることができる刺激応答性ユニットを導入する。 電子ドナーと電子アクセプターをそれぞれ高分子側鎖に導入した線状高分子を合成し、この2 種ポリマーを混合すると、側鎖間に電荷移動錯体が形成されると予想される。この錯体形成が複数箇所で起こることにより高分子鎖が架橋されてゲルになる。低分子系の電荷移動錯体の会合定数は大きくないが、水溶性ポリマーによって水の中に分散された状態では電子ドナーと電子アクセプターの間の相互作用は大きくなり、低分子系の会合定数よりも大きくなると考えられる。電荷移動錯体が形成されると吸収帯のシフトが観察されることから、この系のゲル形成の駆動力になるであろう電荷移動錯体形成による超分子架橋構造形成が分光法により定量的に解析できると思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
高分子架橋材料創製において光感応性のユニットを材料中に導入し、異なる波長に応答して高分子主鎖間を架橋したり、その結合を解離させることができる可逆性を発現させるために、研究室に既存の光源を用いて光照射実験を行った。しかし、光源の出力が弱く、長時間の光照射が必要であり、反応効率が極めて低いことがわかった。そこでUSHIO製の高圧水銀ランプを搭載した光照射装置をデモ機として借りて実験したところ、短時間・高収率で目的の化合物を得ることができた。しかし、このデモ機と同一装置を当該年度内に新たに購入することは困難であったために、次年度初めに購入する計画となった。生じた次年度使用額にてこの当該装置を購入する。
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