研究実績の概要 |
本研究では,適度な網目径と網目数を持ち溶媒に可溶な三次元網目構造体=分子ネット(MN)を作成し,このMN溶液中で別のモノマーを重合(縫込み重合)することにより,トポロジカルな構造をもつ新規ゲルの合成方法を開発し,得られたゲルの特異な物性を明らかにすることを目的としている。令和2年度は,MNおよびそれを用いたゲルの作成方法を確立し,その物性を評価した。 4分岐構造を持つ末端反応性PEG誘導体4-arm PEG-OSuと4-arm PEG-NH2(いずれも分子量1万)を稀薄条件下で量論比1:1となるよう反応させ,未反応のOSu基を3-アミノ-1-プロパノールで処理した。その結果,0.4wt%で48時間反応させた場合に,再現性良く分子量が100万を超えるMNが得られることが分かった。 モノマーとしてヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA),アクリル酸(AAc)を選択し, 水中 MN共存下でラジカル重合を行った。その結果,一定以上のMNおよびモノマー濃度においてゲルが得られた。HEMAを使用した場合, MN非存在下で重合した場合にはゲルが得られなかったことから, MNによる物理的拘束を架橋点とするトポロジカルなゲルが得られたことが示された。AAcの場合は, MN非存在下でもゲル状生成物が得られたが,これは水に容易に溶解したのに対し, MNを使用して得られたゲル状生成物は形状を維持しながら膨潤した。これらのことから, MNが物理的架橋点となったトポロジカルゲルが作成できたと考えられる。膨潤試験では, 同濃度の化学架橋ゲルに比べ著しく大きな膨潤率を示し, 引張試験では同程度の初期弾性率を有する化学架橋ゲルの15倍の破断歪を示すという特徴的な物性を示した。これは, MNに物理的に拘束されている高分子鎖の滑りが大きな要因と考えられる。
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