研究課題
今年度までに無毒性の疎水性イオン液体(IL)界面における細胞培養に成功し、3年間の成果をまとめた原著論文を執筆、投稿した。特筆すべきは疎水性IL界面において接着性細胞は液体に直接、接着している訳ではなく、界面にタンパク質の固体薄膜が形成され、細胞の接着が支持されることを解明した点である。本年度はこのナノレイヤーのキャラクタリゼーションを重点的に行った。特に下層のIL構造が変化すると、タンパクナノレイヤーの力学的、化学的性質がどのように変わるのか分子論的に検証した。高速AFM測定によりタンパク質の吸着速度論を測定、解析したところ興味深いことにタンパク質の吸着速度および、その二次元拡散係数はILのアニオン構造が同一である場合、カチオン構造に依存して異なることが分かった。具体的にカチオンがトリブチルメチルホスフォニウムと、トリヘキシルテトラデシルホスフォニウムでは、ILバルクの極性(ET(30))がほとんど変化しないが、前者の界面における拡散係数が後者の一桁程度大きくなった。前者は、対水(溶液)界面において、より極性の高いメチル基リッチな界面を形成するが、後者では疎水性のアルキルで被覆された界面となる。このような界面にタンパク質が接触した場合、比較的高極性なメチル基リッチ界面の前者ではタンパク質の変性程度は弱いが、後者では直ちに界面で強い変性吸着が促進される。このイオン液体構造に応じた界面変性がタンパク質の拡散に対する抵抗(摩擦力)として働き界面におけるダイナミクスが抑制され、結果として一桁の拡散係数の低下として表れたと考えられた。さらにこの吸着変性メカニズムの違いが最終的に形成されるタンパクナノレイヤーの力学特性に強い影響を与えることを突き止めた。
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