現行のリチウムイオン二次電池や次世代のポストリチウムイオン二次電池の高エネルギー密度化への期待が高まっており,そのために起電力の大きな電池の開発が進んでいる。電池の活物質の研究に比べ,高電位での安定な電極集電体の検討は少ない一方,その電池動作環境での安定性は電池性能に大きな影響を及ぼす。本研究では,フッ化物系で高電位でも安定な電極集電体として安定なフッ化マグネシウムを形成できるマグネシウムの可能性について検討を行った。本年度は以下の成果を得た。 (1)リチウムイオン電池用LiPF6系有機電解液中において,アルミニウムとマグネシウムの耐食性を電気化学的に評価した。その結果,マグネシウムは4 V vs Li+/Liまではアルミにニウムと同等の高い耐食性を示し不働態化するが,5V以上では脱不働態化し,十分な安定性を示さないことが明らかとなった。その原因解明のためのX線光電子分光法を用いて表面皮膜解析を行ったところ,表面皮膜中のフッ化物アニオンの割合が低く,この環境では安定なマグネシウムフッ化物の生成が不十分であることが示唆された。 (2)そこで,フッ化物アニオンが電解液中に多く存在するフッ化物シャトル電池の正極への適用を考えて,CsFを含むテトラグライム系有機電解液中におけるマグネシウムの耐食性を3電極系電気化学セルを新たに構築して検討した。この系ではマグネシウムは比較的良好な耐食性を10 V vs Ag/AgNO3まで示すことがわかり,集電体としての可能性が示唆された。しかしながら,その表面をX線光電子分光法にて深さ方向分析したところ,外層にオキシフッ化物,内層に酸化物の二層構造の表面皮膜が生成しており,電位の上昇とともに内層酸化物の成長が見られたことから,セルの機密性に問題があることが示唆され,更なるセルの改良の必要性も課題として残った。
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