研究実績の概要 |
申請者らが見出したチタン(Ti)酸化物を窒化ホウ素(BN)製のルツボ内で金属ナトリウム(Na)とともに加熱することで,100μmオーダーのTiNの単結晶粒が生成する反応を,従来の金属窒化物の合成法を大きく変える潜在性を有した現象と捉え,固体窒素源を用いた低温での各種金属窒化物の単結晶育成と粉末合成を試みた.各酸化物原料や加熱条件による生成物を調べ,反応機構と結晶の生成・成長メカニズムを調べた.その結果,本手法ではTiN以外にも,V,Nb,Ta,Crの酸化物を原料とすることで,VN, NbN, TaN, Cr2Nの単結晶粒の集合体や粉末粒子が900-1100℃で得られることが明らかになった.本反応は,全ての反応系で副生成物として生成するナトリウムホウ酸塩の大きな生成自由エネルギーが駆動力であり,それを介して金属酸化物の酸素とBNの窒素が入れ替わる広義のメタセシス反応であることが明らかになった.結晶の生成にはナトリウムホウ酸塩等の液相が寄与していることが考えられた.また,TaNやNbNに関しては原料に用いる酸化物の組成により反応系内の窒素量を制御し,各窒化物の多形を作り分けることにも成功した.これらにより,本手法は,高い汎用性を有した金属窒化物の結晶粒や粉末の合成法であり,特定の多形の窒化物の合成にも有用であることが明らかになった. また,TiNの生成反応の中間生成物と考えられるナトリウムチタン酸塩を金属源としてBN粉末と反応させたところ,先の合成手法よりも150℃も低温の850℃でTiNの生成反応が進行した.この金属Naを用いる必要がない窒化物の生成反応は,今後,工業的な応用に適した金属窒化物の低温合成プロセスに応用できる可能性があり,萌芽的な本課題の研究ステージを,実用的なプロセス開発を視野に入れた開拓的な研究ステージにまで引き上げることができたと考える.
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