研究課題/領域番号 |
20K21233
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
砂田 祐輔 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (70403988)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | ケイ素 / 水素 / 触媒 / 結合活性化 / 化学的水素貯蔵法 / 水素キャリア / 普遍金属 |
研究実績の概要 |
本研究では、水素を高効率的に貯蔵・運搬できる新しい技術としての化学的水素貯蔵法を開発することを目的とした研究を行っている。化学的水素貯蔵法として最も注目を集めている手法の一つとして、メチルシクロヘキサンとトルエンへの可逆な変換を活用した、水素の吸蔵および発生を鍵とする、有機ハイドライド法が挙げられる。本手法では、主に白金などの貴金属化合物を触媒として活用し、水素分子を効率的に捕捉・活性化することで、トルエン等の芳香族化合物への水素吸着が達成されている。そこで本研究ではまず、水素分子を効果的に捕捉・活性化可能な触媒の開発を目的とした研究を行った。 我々は以前に、金属中心にキレート型ケイ素配位子を持つ錯体を構築することで、水素分子を効率的に捕捉・活性化できる錯体として機能することを見出している。そこで本研究ではまず、鉄上に2つのケイ素配位子を持ち、かつ配位不飽和性を示すため高い基質捕捉能を示す錯体の開発を行った。またこの際、地殻中に最も豊富に存在するため安価に入手可能である鉄化合物を用いた検討を行った。その結果、当研究室で最近開発したアニオン性ケイ素化合物を用いた手法に立脚することで、ケイ素もしくはケイ素と同族であるゲルマニウム化合物を持つ(ER3)2Fe(L)2 (E = Si or Ge)型構造を持つ鉄錯体を構築できることを見出した。さらに、鉄上の補助配位子Lとして、N-ヘテロ環カルベンなどの強いσ供与性配位子や、イソシアニドなどの強いπ受容性配位子など、様々な立体的および電子的環境を有する配位子の導入が可能であるとともに、Lの種類に応じて異なる幾何構造・スピン配置をとることを見出した。さらに、開発した錯体におけるLの種類と反応性の相関について予備的な検討を行い、σ供与性配位子を導入することで、水素分子の捕捉・活性化を効果的に行うことが可能であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、化学的水素貯蔵法において、ケイ素系化合物を触媒などの構成部位として活用することで、より高効率的に水素を発生・貯蔵可能な新しい技術の開発を目的とした研究を行っている。効率的に水素を捕捉・活性化できる触媒の開発は、本研究における基盤技術であるが、特に持続可能な社会への貢献を視野に入れると、従来法で活用されている貴金属触媒から脱却し、安価で入手容易なベースメタルを活用した触媒の開発が望ましい。そのため本研究ではまず、鉄などのベースメタルの活用に注力し、水素分子を効率的に捕捉・活性化可能な鉄錯体の構築を行ってきた。その結果、特に鉄化合物において、ケイ素やゲルマニウム配位子を持つ錯体を構築することで、水素分子を効率的に活性化可能であることを見出した。このように本研究は、水素分子を活用できるベースメタル化合物の開発に成功しており、順調に進捗しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、開発した鉄化合物を触媒とする有機化合物への水素吸着および逆反応である水素発生反応を開発することで、貴金属触媒を必要としない化学的水素貯蔵法の開発を行う。特に、不飽和結合をもつ有機化合物への水素付加反応の開発にまず注力する。まず、本研究において開発した(ER3)2Fe(L)2型錯体を触媒として活用するが、この際、Lの種類・化学的性質を反応性の相関を精査しつつ、最適構造を持つ鉄触媒の開発を行う。特に、モデル反応としてアルケンやカルボニル化合物などの不飽和有機基質への触媒的水素付加を検討し、水素の効率的な捕捉・活性化と水素付加が可能な最適な触媒系の構築を行う。その後、特にケイ素配位子上の置換基Rの最適化やLの最適化も行いつつ、逆反応である水素発生反応の開発も行う。並行して、コバルトなどの他のベースメタルを活用した触媒の開発も行う。この際も鉄化合物の場合と同様に、金属中心へのケイ素もしくはゲルマニウム化合物の導入に立脚した触媒開発を行うが、特に、分子内に複数のケイ素部位を持つケイ素配位子の開発とコバルト中心への導入を行うことで、複数のケイ素配位子部位を持つコバルト錯体触媒の開発を行う。その後、得られたコバルト錯体の水素分子の活性化能の検討を行うが、この際においても、鉄化合物の場合と同様に、金属上の配位子Lに依存した異なる反応性を示すことが予想されるため、電子的および立体的環境の異なる配位子Lのコバルト中心への導入と、モデル反応としてのアルケンの水素付加もしくはヒドロシリル化による、触媒構造の最適化を行う。
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