本研究では、水素を高効率的に貯蔵・運搬できる新しい技術としての化学的水素貯蔵法を開発することを目的とした研究を行っている。一般的な化学的水素貯蔵法では、不飽和有機基質への水素分子の付加を経由して反応が進行する。本手法では、主に白金などの貴金属化合物を触媒として活用し、水素分子を効率的に捕捉・活性化することで達成されている。一方、貴金属は希少資源であるため高価であるという課題がある。そこで本研究では、貴金属に依存しない普遍金属触媒の開発、もしくは従来触媒と比較して高い触媒活性を示す貴金属触媒の開発と、その活用に立脚した水素分子の効果的な捕捉・活性化・変換法の開発を目的とした研究を行った。 本研究では、ケイ素化合物を金属上の配位子として活用し、水素分子の捕捉・活性化に対し高い活性を示す錯体の合成を指向した研究を行った。まず鉄を中心金属として有するケイ素配位子を有する鉄シリル錯体を合成した。次に、この錯体を用いて水素分子の活性化へと展開したところ、鉄上に2つのケイ素配位子を導入した錯体が水素分子の活性化に対し高活性を示すことを見いだした。 一方、中心金属としてイリジウムを持ち、ケイ素配位子を有する錯体の合成も併せて検討した。この際、触媒活性種の効果的な安定化を指向し、3級ホスフィン部位を有する切れイート型ケイ素配位子の導入に立脚した錯体合成を行った。その結果、2つのSi-P型キレート型ケイ素配位子を導入したイリジウム錯体を開発し、この錯体を触媒として用いた触媒的水素活用へと展開したところ、本触媒は、アルキンの選択的部分水素化に対し、非常に高い触媒活性かつ化学選択性を示すことを見いだした。本反応は、室温、数時間で反応が完結し、従来の貴金属触媒と比較して高活性を示すのみならず、高い選択性でE-アルケンのみを与えるという特徴を有することを見いだした。
|