ラジカルカチオンは不安定で寿命が短いものが多く、その構造や性質について解明すべき点が多く残されている。パーフルオロナフタレンカチオンのようなすべての水素がフッ素に置換された芳香族系カチオンは比較的安定な塩を与えることが知られているが、合成や取り扱いが難しいため、その研究はあまり進められてこなかった。本研究の目的は室温で安定な塩を形成することが知られているパーフルオロナフタレンカチオンと様々なアニオンを組み合わせた高機能性の塩を合成し、イオン液体としての評価を含めて、その熱特性、構造、物性を調べ、二次電池・電解フッ素化用電解液としての応用へと発展させることである。 本年度は、パーフルオロナフタレンカチオンのAsF6塩の合成について、反応条件とともに新しい溶媒を用いた合成方法について挑戦した。この方法では酸化耐性の高いアルコールを溶媒としてパーフルオロナフタレンと五フッ化ヒ素を反応させることで、目的物を生成する。従来法と比較して合成が単純化するが、収率は低いことが分かった。 イオン交換法を用いたアニオンの異なるパーフルオロナフタレン塩の合成では、溶解度が低い無機アニオンとのイオン交換は進行しないことが分かった。一方で、スルフォニルアミドアニオンやパーフルオロアルキル基を有するアニオンなどでは、イオン交換が進行したが、生成物が不安定であり、生成後真空化で真空引きすることで分解してしまうことが確認された。 パーフルオロナフタレンの酸化還元挙動は、サイクリックボルタンメトリーで調べた。アセトニトリルを溶媒とした場合、アノードスキャンでパーフルオロナフタレンの酸化が観測されたが、スキャン方向を折り返したカソードスキャンでは高スキャンレートの時のみ還元波が観測された。これは酸化体が溶液と反応していることを示唆している。また、溶媒を変えることで電気化学挙動が変化することを確認した。
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