酸素は製鉄プロセス、化学プラント、ごみ処理、工業炉等幅広い分野で使用されている重要な基幹ガスであり、酸素を空気から効率的かつ省エネルギーで分離できる多孔質材料が望まれている。国土の狭い我が国において、コンパクト・省エネ装置で高純度の酸素を製造できる技術は極めて重要である。現在、実用化されている酸素製造技術にガス吸着分離法が挙げられるが、空気の主成分である窒素を吸着除去しているため副成分である酸素の分離には非効率である。この問題解決に向けた様々な取り組みがなされているが、現在も根本的な解決には至っていない。本研究では、構造設計性に優れる結晶性多孔質材料metal-organic frameworkに着目し、空気から直接酸素を吸着できる材料の開発を目指した。 計算科学的手法を用い、金属イオンの配位不飽和サイトへの窒素および酸素の吸着状態を評価したところ、金属イオンの種類に応じてその状態に違いがみられた。また、分子の電荷を見積もると、金属イオンの種類に応じて電気的な偏りが生じていることがわかった。これらは、窒素や酸素などの小分子の吸着状態を可視化したことに加えて、データを用いた詳細な評価により吸着エネルギーや電荷移動の度合いを明らかにすることができ、材料合成における重要な指針を得た。配位不飽和な金属イオンサイトを有する複数のMOFを合成し、それらの吸着特性を評価したが、多くのMOFにおいて計算科学的手法で得られた結果と符合する吸着の結果を示した。これらの結果より、酸素を選択的に吸着する材料の特徴を明らかにすることができており、酸素の吸着力の優れた高機能性多孔質材料の開発指針が固まった。
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