ゲノム編集技術ではCRISPR-Cas9などのヌクレアーゼによる標的遺伝子切断によって生じる変異を利用して遺伝子ノックアウトを行う。ゲノム上に存在する標的配列に類似した箇所での「意図しない」切断(オフターゲット作用)が問題視されている 。また、非常に高い利便性のため、バイオテロなどへの悪用も懸念されており、国際的に協調した厳密な規制やブレーキ機構(分子)の開発が求められている。現状では各クリスパーキャスファミリーに個別に対応したアンチクリスパー分子を利用する方法しかないが、すべてのクリスパーキャスファミリーに対して共通に働くアンチクリスパー分子があることで産業利用の加速化が期待できる。そこで本課題では広いスペクトルと高い阻害活性を有するアンチクリスパーを”Super”Anti-CRISPR分子として新たに創製することを目的としている。クリスパーキャスファミリーが由来する微生物・細菌のゲノムを探索することでそれぞれに対応するアンチクリスパー分子が存在することが知られている。これまで主にSpCas9に対して高い阻害活性を持つAcrIIA4を中心に検討してきたが、AcrIIA5、AcrIIA6も検討対象に加えて評価を行った。in vivoでの利用も視野に入れてアデノ随伴ウイルスベクターに搭載したSaCas9を構築し、AAV感染によるゲノム編集効率を評価した。それに付随し、コントロールとしてSpCas9を搭載したAAVベクターによるゲノム編集効率も評価した。AcrIIA1~A6に加えてA11の発現系を構築し、阻害活性の評価も行っている。ゲノム編集の正確性が向上しているSpCas9変異体について、AcrIIA4やA5との相互作用点に変異が導入されている場合は阻害活性が低下している可能性があるため、その変異に対応して阻害活性を保持するAcrを探索していく必要性が見出された。
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