研究課題/領域番号 |
20K21256
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
居原 秀 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (60254447)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 活性イオウ化イミダゾール / 活性イオウ / イミダゾール / カルノシン / 2-グルタチオニル-カルノシン / 2-システイニル-カルノシンパースルフィド / 2-システイニル-カルノシン |
研究実績の概要 |
応募者は、生体内にニトロ化核酸、活性イオウ分子種、酸化イミダゾールなどレドックス活性を持つ様々な“レドックスメタボライト”が存在し、ユニークな化学特性を持った新規生体制御因子であることを示す先駆的研究を行ってきた。レドックスメタボライトは、不安定なため同定、定量が困難で、存在様式など不明な点が多い。本申請研究では、活性イオウ分子種とイミダゾールが反応して生じる新規レドックスメタボライト“活性イオウ化イミダゾール”に注目し、網羅的かつ定量的解析法の確立を目的としている。試験管で活性イオウ分子種、グルタチオンまたはシステイン、イミダゾール化合物の一つであるカルノシンを反応させると、様々なイオウ含有カルノシン誘導体が産生されることを見出した。合成した化合物を用いて、高速液体クロマトグラフィー-タンデム型質量分析装置(LC-MS/MS)による多重反応モニタリング法の条件を最適化した。ラットの脳、腎臓、骨格筋を解析したところ、脳で新規レドックスメタボライトである2-システイニル-カルノシン、 2-システイニル-カルノシンパースルフィド、 2-グルタチオニル-カルノシン [GS-Car]の同定に成功した。さらに GS-Carの安定同位体化合物を合成し、安定同位体希釈法により定量を行った結果、GS-Carは数pmol/mg proteinオーダーで検出され、前駆体であるカルノシンの約1/1000倍、酸化体である2-oxo-carnosineの約10倍の濃度で生体内に存在していることが明らかとなった。また、その含有量は3ヶ月齢のラット脳内で最も高く、9ヶ月齢では約1/3に減少していた。さらに GS-Carは、カルノシンよりも高い抗酸化活性をもつことを示した。これらの結果からGS-Carは生理・病理的に重要な役割を担っている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の研究では、試験管内活性イオウ化イミダゾール化合物の合成実験として、システインまたはグルタチオンと、生体内に多量に存在することが知られているイミダゾールジペプチドの一つであるカルノシンを、無機活性イオウドナーである3硫化2ナトリウムの存在下で反応させ、2-システイニル-カルノシン、 2-システイニル-カルノシンパースルフィド、 2-グルタチオニル-カルノシンなどいくつかの活性イオウ化イミダゾール化合物が合成されることを見出した。実際にラット脳内における活性イオウ化イミダゾール化合物の産生を確認したところ、3つの化合物に関して産生が確認できた。以上のように今年度の研究では、酸化型活性イオウ化イミダゾール化合物の検出、生体内産生の確認に成功した。この点では、本研究の目的である「活性イオウ化イミダゾール-レドックスメタボライトの網羅的かつ定量的解析方法を確立」できたといえる。 活性イオウ化合物には、還元型と酸化型が存在することが知られている。しかし、2020年度は、酸化型活性イオウ化イミダゾール化合物の検出および生体内産生を明らかにしたが、還元型活性イオウ化イミダゾール化合物に関しては試験管内反応においても検出・同定ができていない。
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今後の研究の推進方策 |
還元型活性イオウ分子は、不安定であるためアルキル化剤で末端のSH基を標識する必要がある(Proc. Natl Acad. Sci. USA 2014)。一方でアルキル化剤は活性イオウ構造を分解することも知られている(Nature Commun. 2017、Redox Biology 2019)ため、活性イオウ構造を保持したまま、還元型活性イオウ化合物を検出することは困難であった。最近、申請者は活性イオウ構造の分解を抑制し、末端SH基を標識する、活性イオウ化合物解析に特化したアルキル化剤N-iodoacetyl L-tyrosine methyl ester (TME-IAM)の開発に成功した(Antioxid Redox Signal 2021)。2021年度は、TME-IAMを用いて、還元型活性イオウ化イミダゾール化合物の試験管内合成、HPLC-MS/MSによるMRM法の最適化、生体内産生を解析する。
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