不安定なレドックスメタボライトには、従来の生物学の概念を覆すような様々な機能を有していることが明らかになっている。本申請研究では、活性イオウ化イミダゾール化合物に着目したメタボロミクスの基盤技術の開発を目指した。 これまでに、試験管内で活性イオウ分子種、チオール化合物(グルタチオンまたはシステイン)、イミダゾール化合物の一つであるカルノシンを反応させると、様々なイオウ含有カルノシン誘導体が産生されることを見出した。高速液体クロマトグラフィー-タンデム型質量分析(LC-MS/MS)で、ラットの脳、腎臓、骨格筋を解析したところ、脳で新規レドックスメタボライトである様々な酸化型活性イオウ化イミダゾールジペプチド(2-システイニル-カルノシン、 2-システイニル-カルノシンパースルフィド、 2-グルタチオニル-カルノシン [GS-Car])の同定に成功した。さらに安定同位体希釈法により定量解析を行い、GS-Carは、前駆体であるカルノシンの約1/1000、酸化体である2-oxo-carnosineの約10倍の濃度で生体内に存在していることが明らかとなった。 2021年度は、還元型活性イオウ化イミダゾール化合物を解析することを目的とした。まず、活性イオウ構造を分解せずに、還元型活性イオウの末端を標識保護するアルキル化試薬N-iodoacetyl L-tyrosine methyl ester(TME-IAM)の開発を行った。試験管内で活性イオウ分子種、酸化型硫黄化カルノシンを反応させた後、TME-IAMを用いて還元型末端構造の標識・安定化を行い、LC-MS/MSで解析を行ったところ、メルカプトカルノシンのTME-IAM付加体(Car-S-AM-TME)は検出されたが、硫黄が過付加した活性イオウ化カルノシンのTME-IAM付加体(Car-Sn-AM-TME)は検出されなかった。
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