研究課題/領域番号 |
20K21258
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
杉本 直己 甲南大学, 先端生命工学研究所, 教授 (60206430)
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研究分担者 |
建石 寿枝 甲南大学, 先端生命工学研究所, 准教授 (20593495)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 非二重らせん構造 / カリウムイオン / 遺伝子発現 / イオンー核酸相互作用 / がん細胞内環境 |
研究実績の概要 |
近年、核酸の非二重らせん構造が形成されると複製・転写・翻訳などの生体反応の変異が誘発されるなど、生体機能に摂動を与えることが見出され、細胞内での非二重らせん構造と疾患発症の相関が議論されはじめている。 非二重らせん構造は、特定のカチオンとの結合によって劇的に安定化する。興味深いことに、がん、神経変性疾患など疾患細胞内では、疾患特有の“イオンチャネル”タンパク質の過剰発現(または不活性化)により、細胞内のイオン濃度は正常細胞と異なると推察される。つまり、疾患に関わる遺伝子発現において、“イオン”濃度の変化が核酸の構造を変化させ、生体反応の変異が誘起されている可能性がある。本研究では、上記の仮説を検証し(基盤研究)、イオンー核酸相互作用を介した遺伝子発現を制御する手法を開発する(応用研究)ことを目的とする。 本年度は、細胞内のイオン環境下におい、DNA/DNA二重らせん構造(Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 117, 14194-14201 (2020))、RNA/DNA二重らせん構造、 (Nucleic Acids Res., 48, 12042-12054 (2020))、がん遺伝子上の四重らせん構造の構造や安定性を解析し(Biochemistry, 59, 2640-2649 (2020))、細胞内の分子環境やイオン濃度が核酸構造に大きく影響を及ぼすことを明らかにした。さらに、ヒトの乳がん細胞 (MCF-7)、悪性乳がん細胞 (MDA-MB-231)内において、四重らせん構造をもつ鋳型から転写される転写量を解析した結果、イオンチャネルの発現量に応じて、転写量が変化することを見出した(日本化学会第101回春季年会で発表)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始初年度の本年度は、細胞内の分子環境やイオン濃度変化が核酸構造に及ぼす影響を試験管内の実験において定量化することができた。さらに、実細胞のイオン環境を制御するため、イオンチャネルの発現に応じた核酸構造の変化が転写活性に及ぼす実験系を構築した。また、イオン環境を制御するため、化合物ラブラリーを用いて、イオンチャネルの活性を制御する実験を開始した。さらに、複製伸長反応を検討した結果、共存する溶質の変化に応答して、塩基の親和性が異なることが見出された(RSC Adv., 10, 33052-33058 (2020))。これらの知見は、2021年度に行うイオンー核酸相互作用を介した、新規の遺伝子発現制御法の開発において有用な知見となる。 そのため、本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、非二重らせん構造を介した生体反応の制御機構を解明し、制御できる技術の開発を行う。まず、疾患発症やその進行特有のイオンチャネル発現を有する細胞内において転写・翻訳反応の変異を解析する。また疾患によってmiRNAの発現バランスも変化することが知られているため、種々のイオン環境におけるmiRNAの発現レベルと個々の活性を次世代シーケンサによって解析する。例えば、K+を細胞外に放出するチャネル(KCNH1)等をノックダウンした 細胞中において、非二重らせんを形成する遺伝子からの転写、翻訳、miRNAの活性を評価し、細胞内環境が非二重らせん構造と遺伝子発現に及ぼす影響の相関を解析する。さらに、非二重らせん構造の構造を誘起・解離させる小分子、または非二重らせん構造の形成に寄与するイオンのチャネルタンパク質の活性を制御させる小分子によって核酸の構造を制御する。種々の細胞間でこれらの遺伝子発現の変異を解析することにより、解析結果をフィードバックする。これらの成果を基に、遺伝子発現を高い効率で制御する機能性分子の分子設計の指針とし、イオンー核酸相互作用を介した遺伝子発現を制御する手法を開発することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
イオンチャネル発現バランスに応じた転写産物のクロマチン免疫沈降 (ChIP) 解析を、一部外注して行うが、試薬の手配の遅れにより、受託の解析を3月に開始することとなった。繰り越した分の助成金はChIPの解析費用として活用する。
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