研究実績の概要 |
本研究では、細胞内のイオン環境や非二重らせん構造の形成が遺伝子発現に及ぼす影響の解析し、イオンー核酸相互作用を介した、新規の遺伝子発現制御法を開発することを目的としている。 2021年度は、疾患細胞モデルとなるイオン溶液を最適化し、疾患モデル環境評価系を構築した。例えば、正常細胞と老化細胞内のイオン環境が異なることに着目し、疾患モデル環境の下において、エピジェネティクス機構に重要なシトシン塩基のメチル化が二重らせん構造から四重らせん構造(i-モチーフおよびグアニン四重らせん構造)への構造変化に及ぼす影響を解析した。その結果、老化細胞環境では、エピジェネティック修飾により二重らせんから四重らせん構造への遷移が抑制されることを見出した(RSC Adv., 10, 33052-33058 (2020))。さらに、イオン環境下における核酸構造変化に着目し、核酸構造と小分子の相互作用を解析した。その結果、四重らせん構造のトポロジー依存的な複製制御機構を明らかにした(J. Am. Chem. Soc., 143, 16458 (2021))。さらに、三重らせんや四重らせん構造を特異的に安定化する低分子化合物やペプチドを開発し、遺伝子発現制御できる技術を開発した(ACS Chem. Biol., 16, 1147-1151 (2021)、 Life., 12, 533(2022)) また、本研究成果を基に、細胞内の液-液相分離(Liquid-Liquid Phase Separation)が、がんや神経変性疾患の進行に及ぼす影響について、イオン環境を加味した物理化学的な理解と今後の展望をまとめた総説を発表した(Nucleic Acids Res., 49, 7839 (2021))。
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