研究課題/領域番号 |
20K21259
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
三好 大輔 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 教授 (50388758)
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研究分担者 |
川内 敬子 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 准教授 (40434138)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | RNA / ペプチド / 相分離 / 核小体 / ストレス顆粒 / 四重らせん構造 / リボソーマルRNA |
研究実績の概要 |
外部ストレスへの対処は細胞の機能保持に必須である。核内のストレス応答顆粒が核小体である。リボソーマルRNA(rRNA)とRNA結合タンパク質を主要素とする核小体はリボソームの生産を抑制する。細胞質内の代表がストレス顆粒である。ストレス顆粒はmRNAとRNA結合タンパク質を含み、翻訳を抑制する。これらストレス応答顆粒の特徴は、分子環境に依存した顆粒形成とその可逆性にある。タンパク質のみからなる凝集体形成は不可逆であり、外部刺激応答性もない。一方で、rRNAとmRNAの多くは、分子環境応答性を特徴とする四重らせん構造(G4)を形成する配列を含む。特にrRNAには、G4を形成する配列が多く存在することが報告されている。そこで本研究では、核小体に含まれるrRNAが形成するG4に着目し、核小体とストレス顆粒を比較することで、ストレス応答顆粒形成におけるG4の役割を解明し、その合目的的制御方法を構築することを試みている。 研究初年度の2020年度では、当初の研究計画に従って、モデルRNAとペプチドの顆粒を構築し、構造安定性-分子環境-顆粒形成能の相関を定量することを進めた。オリゴRNAとモデルペプチドを用いて、核小体にみられる顆粒を再現することに成功した。顆粒は濁度で追跡すると同時に、顆粒の可逆性評価には、FRAP、温度変化、アルコール(ジオール類)を用いた。 同時に、顆粒に含まれるRNAG4に対する合目的的制御方法を確立するため、G4に結合し、光照射によってG4を破壊できるシステムを構築した。加えて、機能性RNAのスイッチング機構の解明や、顆粒形成に重要となるエピジェネティック修飾と分子環境効果の定量にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度の2020年度における一番の課題は、モデルRNAとモデルペプチドを用いて、顆粒のモデル系を構築することであった。この点について、核小体に含まれるリボソーマルRNA・リボソーマルDNA、種々のmRNAと、RNA結合タンパク質が共通してもつドメインであるRGGドメインを模倣したペプチドを用いて、顆粒を形成することを見出した。顆粒を評価するために必須である、FRAP、温度変化、アルコール(ジオール類)の計測系を構築し、可視・紫外分光光度計と吸光光度プレートリーダーを用いたハイスループットな測定方法も確立した。 構造安定性-分子環境-顆粒形成能の相関を定量することに関しても、分子環境と核酸の化学修飾が及ぼす核酸構造安定性への効果を定量的に見積もることができた。顆粒の合目的的制御方法については、モデルRNAおよびDNAが形成するG4を標的にした低分子を用いることで、達成の目途がつきつつある。 コロナ禍のため、実験を進めることが制限されている環境においても、文献調査や実験結果の議論などを進め、研究の推進に有用な知見が得られた。以上のことから、2020年度については、おおむね順調に研究が進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に構築したモデル系を用いて、①構造安定性-分子環境-顆粒形成能の相関を定量することを進める。また、当初の研究計画において実施を予定していた、②全長RNAとタンパク質の顆粒の細胞模倣環境内での解析と、③細胞内での顆粒計測、についても検討を進める。 ①に関しては、DNAおよびRNAのメチル化に注目する。これまでに、メチル化が核酸構造安定性を変化させ、顆粒形成能に影響するという結果を得ていることから、この定量化を進める。②に関しては、無細胞系を用いて、長鎖のRNAを合成し、顆粒形成を観測する。すでに、鋳型DNAから転写によって種々の鎖長のRNAを合成し、顆粒形成能を評価しつつある。タンパク質に関しては、全長のタンパク質とともに、2020年度に重要性が明らかとなったRGGドメインと、これを含むLC(低複雑性)領域を含むタンパク質断片の顆粒形成能について検討する予定である。③の細胞内での顆粒形成については、G4の抗体を用いるとともに、2020年度に見出したRGGドメインのモデルペプチドを細胞内に導入することで、検討を進める。これまでに、モデルペプチドの細胞内導入の条件検討に目途がつきつつある。 以上のようにして、当初の計画に従い、2021年度には三つの要素技術を構築する。最終的には、ストレス応答顆粒形成におけるG4の役割を解明し、顆粒の合目的的制御方法を構築することを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、実験の実施の一部に滞りがあったため、2021年度に使用することとした。2020年度の報告の欄に示したように、研究自体はおおむね計画通りに進んでいる。2021年度には、長鎖のRNAやタンパク質の調整、細胞内での顆粒観測のための抗体など、比較的多くの消耗品費が必要となることから、2021年度に使用する予定であった金額を合わせて、使用を進めていきたい。
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