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2020 年度 実施状況報告書

標的とする細胞表層タンパク質の生合成を特異的に阻害する革新的な低分子化合物の探索

研究課題

研究課題/領域番号 20K21262
研究機関東北大学

研究代表者

門倉 広  東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (70224558)

研究期間 (年度) 2020-07-30 – 2022-03-31
キーワードIL6R / PD-1 / 生合成阻害剤 / ジスルフィド結合 / シグナル配列 / 小胞体 / 哺乳動物
研究実績の概要

令和2年度は、疾病の原因となる次の2種類のヒト細胞表層タンパク質のシグナル配列に結合し、その生合成を特異的に阻害する薬剤を探索する目的で、次の実験を行った。
1.IL6Rは自己免疫疾患の原因となるヒト細胞表層タンパク質である。令和2年度には、まず、研究代表者らが開発したFLuc*にIL6Rのシグナル配列を含むN末端の40アミノ酸を付加したレポーターを作成し、探索に向けて様々な角度から検討をおこなった。本レポーターを使って、目的の薬剤を探索するためには、IL6Rのシグナル配列によってFLuc*が小胞体内に送り込まれ、ジスルフィド結合が分子内に導入されることによってFLuc*が失活することが必要である。レポーターを発現するHeLa細胞を還元剤存在下培養するとルシフェラーゼ活性は40倍に上昇した。よって、IL6Rのシグナル配列が効率よく機能していることが判明した。阻害剤のライブラリーは貴重であり、探索は小さなスケールで行う必要があるが、当該条件下ではデータのばらつきが大きくなった。そこで、種々の検討をおこない、小さなスケールで多数のアッセイを同時に行うための条件を見出すことに成功した。条件を最適化後、理化学研究所の高活性標準化合物ライブラリーで1次探索を行ったところ、レポーターからのルシフェラーゼ活性を再現性良く上昇させる化合物を2種類得ることに成功した。
2.PD-1はがん細胞に対する免疫寛容の原因になるヒト細胞表層タンパク質である。上記と同様の解析を行ったところPD-1のシグナル配列は、FLuc*を効率よく小胞体に輸送できないことが判明した。よって、PD-1のシグナル配列を標的にした薬剤を探索するためには、工夫が必要であることがわかった。
また、上記の実験のもととなる小胞体内におけるタンパク質のジスルフィド結合形成に関する知見をまとめ「化学と生物」誌に公表した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

IL6Rのシグナル配列を標的にした探索では、先述したように、実験を遂行する上で問題が生じたが、実験条件を最適化することにより、問題を解決することに成功した。更に、その条件下、理化学研究所の高活性標準ライブラリーを探索し、現時点で、2種類のヒット化合物を得ることに成功している。これは令和3年度以降の探索研究に向けて大きな進展である。
一方、PD-1のシグナル配列を標的にした薬剤の探索では、PD-1のシグナル配列は、FLuc*を効率よく小胞体へと輸送できないことが判明した。よって、このままでは、PD-1を標的にした薬剤の探索は困難であることが分かった。後述するように、この問題を解決するための方策が一つ考えられることから、そのための実験を令和3年度に計画している。

今後の研究の推進方策

目的の化合物を見つけるため、令和3年度は、次のような方針で実験をすすめる。
1. IL6Rのシグナル配列を標的にした阻害剤の探索
令和2年度における探索の結果得た、2種類のヒット化合物について、2次探索以降の実験をすすめる。1次探索では、ジスルフィド結合形成を阻害する薬剤やタンパク質を小胞体へ輸送する装置の機能を阻害する薬剤など、目的外の化合物も取れてくる。その中から特定のシグナル配列に対する阻害剤を探すためには、小胞体への局在化が阻害されると小胞体内でおこるN糖鎖付加も阻害されるため、その分だけ(約5 kDa)目的のシグナル配列を付与したFLuc*の分子量だけが、低下することを利用する。有望な化合物を見つけたら、標的タンパク質(IL6R)の生合成に対する、化合物の作用をウエスタン解析やパルスチェイス実験で調べる。もし、目的の化合物が得られなかった場合には、理化学研究所の所有する天然化合物ライブラリーのうちパイロットライブラリーへと探索の対象を広げる予定である。
2. PD-1のシグナル配列を標的にした阻害剤の探索
探索ためのレポーターはPD-1のシグナル配列を含むN末端の40アミノ酸をFLuc*に付加することによって作成した。PD-1のシグナル配列の機能にはPD-1の成熟体部分も必要になる可能性があることから、PD-1の更に下流の領域までを含んだレポーターを作成し、FLuc*の輸送活性を調べる。FLuc*を効率よく小胞体に輸送するレポーターを構築できた場合には、PD-1についても1次探索を実施する。その際には、IL6Rの探索系を作成する過程で得たノウハウが役に立つ筈である。

次年度使用額が生じた理由

前述したように、実験計画の全てが予定通り進んだわけではないので、2762円の残額が生じた。令和3年度の予算とあわせて、目的の阻害剤を探索するための費用として使用する予定である。特に、令和2年の残額については物品費として使用する予定である。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2021 2020 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] 哺乳動物細胞PDIファミリー酵素の生理的な基質の同定:ヒト由来分泌タンパク質の効率良い生産系の開発にむけて2020

    • 著者名/発表者名
      門倉 広
    • 雑誌名

      化学と生物

      巻: 58 ページ: 441-443

    • DOI

      10.1271/kagakutoseibutsu.58.441

    • 査読あり
  • [学会発表] ジスルフィド結合が形成される仕組み:独自のアプローチで迫る、ヒト分泌タンパク質の生細胞内における立体構造形成機構2021

    • 著者名/発表者名
      門倉 広
    • 学会等名
      第5回 有機・生命・計測科学研究交流セミナー
  • [備考] 門倉 広|東北大学 大学院 生命科学研究科

    • URL

      https://www.lifesci.tohoku.ac.jp/research/teacher/detail---id-19734.html

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公開日: 2021-12-27  

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