令和4年度は、疾病の原因となるヒト細胞表層タンパク質の生合成を特異的に阻害する薬剤を探索する目的で、次の実験を行った。 1)標的タンパク質のシグナル配列の機能を阻害する薬剤の存在下、ルシフェラーゼ活性を発現するレポーターを使って探索を続けたが、1次探索では複数のヒット化合物が得られるものの、最終的には目的の化合物でないことが判明した。よって目的の化合物を得るためにはより大規模な探索が必要なことが分かった。しかし、実際の探索ではレポーターの応答が予想外に小さく、化合物の絞り込みには複数回のアッセイが必要になった。そこで、レポーターの改善を進めたところ、ルシフェラーゼに連結するIL6RのN末端配列を長くすることによってレポーターの感度は2倍以上改善した。これは大規模な探索に向けて大きな進展である。 2) 1次探索で得られた複数の化合物がいずれも目的の化合物でなかったことから、探索に用いるレポーターの特質をより深く理解する必要がある。そこで、次の解析を行った。まず、小胞体内腔に存在するEro1aはジスルフィド結合形成に必要な酸化力をPDIに供給するが、この過程を薬剤で阻害したところ、ルシフェラーゼ活性は有意に上昇した。逆に、恒常的に高い活性を示すEro1aの変異体を発現させたところルシフェラーゼ活性が有意に低下した。更に、小胞体膜タンパク質LMF1を過剰発現すると、ルシフェラーゼ活性が著しく上昇し、小胞体内が還元的になることが分かった。その結果、本レポーターは、小胞体機能の解析にも有用であることが判明した。以上の知見は、大規模な探索を行う上で基礎になる重要な情報であり、探索の効率化に役立てていく予定である。 なお、分泌タンパク質生合成のメカニズムや本研究の一部を「化学と生物」および「日本応用酵素協会誌」に報告した。更に、現在、本研究から判明したレポーターの特質を論文にまとめている。
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