研究課題/領域番号 |
20K21267
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
山田 哲也 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20422511)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | バイオ肥料 / バチルス属プミルス種 / 接種効果 / イネ / 内生微生物叢 / メタゲノム解析 |
研究実績の概要 |
令和2年度は、バイオ肥料の原体微生物であるバチルス属プミルス種(TUAT1株)の接種効果の現れ方が品種の違いによって異なることの原因を、接種直前のイネ種子における内生微生物叢構造の違いという観点から明らかにするための知見を得た。農業生物資源ジーンバンクより入手可能なイネ品種のうち、公開SNP情報(Rice Diversityの700k SNPジェノタイピングデータ)が利用可能な70品種を実験に供試した。各イネ品種の種子を次亜塩素酸で表面殺菌した後、25℃の流水中で5日間吸水させ、粒状培土に播種後、1×10^7 CFU/mLの濃度に調整したTUAT1株の芽胞菌液を土壌表面に散布した。その後、1週間おきに同濃度の芽胞菌液をイネ実生の株元に追加散布し、播種後3週目の実生について、冠根数や茎葉新鮮重などを測定し、TUAT1株の芽胞接種が実生の生育に及ぼす影響を調査した。その結果、70種類のイネ品種の中には、芽胞接種により冠根数が増加し、茎葉の発達が顕著に促進される品種だけでなく、冠根数が減少し、茎葉の発達が抑制される品種も含まれていることを確認した。また、芽胞接種により実生の生育が顕著に促進された品種群(「亀治」、「雄町」など)および抑制された品種群(「BEI KHE」、「VANDARAN」など)について、吸水直後の種子胚から内生細菌を分離・培養して、ゲノムDNAを抽出し、細菌叢内の16S-rRNA遺伝子の系統的シークエンシングによるメタゲノム解析を実施した。その結果、TUAT1株の接種効果の現れ方に違いのある品種群間では、吸水後の種子胚に存在する内生細菌叢の多様性には有意な違いはなかったが、特定の属(Stenotrophomonas属など)に属する細菌の存在頻度には有意な差異のあることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和2年度は、ジーンバンクより入手したイネ70品種について、実生の生育だけでなく、耐塩性や低温出芽性に対するTUAT1株の接種効果も評価し、その効果の現れ方に差異のある品種群を明らかにして、全品種のメタゲノム解析を実施する予定であった。また、同じ品種でも、吸水時の水温や採種年度、採種地の違いにより、TAUT1株の接種効果の現れ方に差異があることも明らかにする予定であった。しかし、当該実験を実施する予定であった恒温室や実験室の所在地は東京都であり、新型コロナウイルスの感染拡大を防止する対策として、所属機関の方針に従い、研究補助者の入構制限や恒温室や実験室の利用制限を実施しなければならなかったため、予定通りに実験を実施することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は、新型コロナウイルスの感染防止対策の影響により、予定通りに実験を実施することができなかった。令和3年度も同対策が継続されているため、令和2年度に得られた研究成果に基づき、そのような状況下でも本研究課題の所期の目的を達成することが可能となるよう、実験計画の一部変更を検討している。具体的には、令和2年度に実施したメタゲノム解析の結果から、イネ実生の生育に対するTUAT1株の接種効果の現れ方に差異のある品種群間において、特定の属に属する細菌の存在頻度に有意な差異のあることが分かった。そこで、令和3年度は、イネ70品種について、吸水後の種子胚におけるそれらの細菌の存在量をメタゲノム解析ではなくリアルタイムPCR法で定量することで、TUAT1株の接種効果に品種間差を生じさせている原因遺伝子の候補を検出するために実施するゲノムワイド関連解析(GWAS)に必要な形質データを早期に入手する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は、イネ70品種について、耐塩性や低温出芽性に対するTUAT1株の接種効果も評価し、その効果の現れ方に差異のある品種群を明らかにするとともに、全品種のメタゲノム解析を受託解析により実施する予定であった。しかし、新型コロナウイルスの感染防止対策(研究補助者の入構制限や恒温室や実験室の利用制限)の影響で、予定通りに実験を実施することができず、それらの実験のための必要経費として計上していた額が次年度使用額となった。令和3年度は、令和2年度に実施できなかった実験を早期に実施する、あるいは、メタゲノム解析の代替手法として考えているリアルタイムPCR法に必要な解析装置等の購入により、次年度使用額を使用する予定である。
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