研究課題/領域番号 |
20K21267
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
山田 哲也 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20422511)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | バイオ肥料 / バチルス属プミルス種 / 接種効果 / イネ / 内生微生物叢 / メタゲノム解析 |
研究実績の概要 |
令和3年度は、令和2年度に実施した吸水後のイネ種子胚におけるメタゲノム解析によって、バイオ肥料の原体微生物であるバチルス属プミルス種(TUAT1株)の接種効果(冠根形成の促進)が強く現れるイネ品種で高い存在比を示すことが確認された特定の細菌種(X種)について、胚での存在量をリアルタイムPCR法により定量する方法の確立を試みた。具体的には、当該菌種のゲノムDNAを特異的に増幅することが報告されている複数のプライマーペアとPCR反応条件を用い、菌叢解析に用いた内生菌DNAを鋳型として、PCRを実施した。その結果、いずれもプライマーペアでも特異的な増幅を確認することができなかったことから、新たに設定した種々のPCR反応条件を検討し、特異的な増幅が可能なプライマーペアと反応条件を見出した。また、吸水後のイネ種子胚から内生細菌のゲノムDNAを抽出する方法についても、先行知見に基づき種々の方法を検討し、最適な実験手順を見出した。これにより、吸水後の種子胚に存在する特定菌種をqPCRにより定量することが可能となり、イネ種子胚における内生微生物叢構造およびイネ実生に対するTUAT1株芽胞の接種効果に品種間差異をもたらすイネ側の原因遺伝子をゲノムワイド関連解析(GWAS)により同定する準備が整った。一方、本年度は、TUAT1株の芽胞接種によりイネの低温出芽性が向上するメカニズムを解明することも試みた。具体的には、芽胞接種によりイネ種子胚で発現が変動する遺伝子をトランスクリプトーム解析により検出し、GO解析やパスウェイ解析を行った。その結果、芽胞を接種したイネ種子の胚では、免疫反応やシトクロム呼吸経路の促進によりNOの蓄積が生じていること示唆する結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和3年度は、イネ70品種について、TUAT1株の接種効果が強く現れる品種の種子胚で存在比の高かった細菌(X種)の存在量をメタゲノム解析ではなくリアルタイムPCR法で定量することで、TUAT1株の接種効果に品種間差を生じさせている原因遺伝子の候補を検出するために実施するGWASに必要な形質データ(X種の存在量)を早期に入手する予定であった。しかし、当該菌種のゲノムDNAを特異的に増幅することが可能なプライマーペアやPCR反応条件を見出すための試行錯誤に多くの時間を費やしてしまった。また、吸水後のイネ種子胚から内生細菌のゲノムDNAを抽出する方法の確立にも、試行錯誤が必要であった。さらに、当該実験を実施する予定であった恒温室や実験室の所在地は東京都であり、昨年度に引き続き、本年度も、新型コロナウイルスの感染拡大を防止する対策として、所属機関の方針に従い、研究補助者の入構制限や恒温室や実験室の利用制限を実施しなければならなかったため、予定通りに実験を実施することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度も、新型コロナウイルスの感染防止対策の影響により、予定通りに実験を実施することができなかった。令和4年度も同対策が継続されているため、令和3年度に得られた研究成果に基づき、そのような状況下でも本研究課題の目的を達成できるようにするため、実験計画の一部変更を検討している。具体的には、令和3年度に確立したリアルタイムPCR法によるイネ種子胚での特定菌種(X種)の定量法を用いて、イネ70品種について当該菌種の存在量を明らかにする。当初の予定では、メタゲノム解析により全イネ品種について、当該菌種の存在比を確認する予定であったが、受託解析の遅れが予想されることや、菌培養を経ることにより定量性が低下する可能性があることなどから、令和3年度に確立した新手法に切り替え、所期の目的を達成することにする。また、イネ70品種における耐塩性や低温出芽性などの形質に対するTUAT1株の接種効果の評価には、実験補助者を増員し、1つの形質に対して1名が実験を担当する体制を整え、GWASの実施に必要な全ての形質データを早期に取得する予定である。さらに、イネ実生におけるTUAT1株の各種接種効果の発現に関与することが予想される遺伝子を比較トランスクリプトーム解析により検出しておき、GWASで検出された候補遺伝子の絞り込みを行う際の参考情報とすることで、効率的に目的遺伝子の同定を行えるようにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度は、イネ70品種について、耐塩性や低温出芽性に対するTUAT1株の接種効果も評価し、その効果の現れ方に差異のある品種群を明らかにするとともに、全品種のメタゲノム解析を受託解析により実施する予定であった。しかし、新型コロナウイルスの感染防止対策(研究補助者の入構制限や恒温室や実験室の利用制限)の影響で、予定通りに実験を実施することができず、それらの実験のための必要経費として計上していた額が次年度使用額となった。令和4年度は、実験補助者を増員し、令和3年度に実施できなかった実験を早期に実施する。また、リアルタイムPCR法に必要な試薬等の購入や比較トランスクリプトーム解析の受託解析により、次年度使用額を使用する予定である。
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