研究課題
還元・酸化を基盤としたタンパク質の機能制御系であるレドックス制御系は、植物の光合成の明・暗に応答したオン・オフ調節に重要な役割を果たしている。光合成の場である葉緑体がレドックス制御系を持つことは半世紀近く前から知られているものの、酸化側(オフ側)の制御を行うためのメカニズムはほとんど明らかになっていなかった。そのような背景の下、研究代表者は2018年にタンパク質酸化因子(チオレドキシンライク2;TrxL2)を同定した(PNAS 2018)。この発見を突破口と捉え、本研究では、タンパク質酸化システムの全容解明に挑戦し、光合成抑制の観点から「植物は夜どのように眠るのか」という問いに答えることを目指す。2021年度は、(1)組換え体タンパク質を用いた生化学解析によって、葉緑体局在型の解糖系酵素ホスホフルクトキナーゼ(PFK)をレドックス制御の新規標的として同定し、またTrxL2に依存した酸化・活性化を受けることを明らかにした(Plant Cell Physiol. 2021)。(2)ゲノム編集によって作出したTrxL2の破壊株シロイヌナズナを用いて、TrxL2のin vivoにおける酸化標的を明らかにした。また、TrxL2を介したタンパク質酸化制御が光合成機能に与える影響を明らかにした(PNAS 2021)。これらによって、葉緑体レドックス制御系におけるタンパク質酸化のメカニズムに関する理解を深めることができた。
2: おおむね順調に進展している
当初の目的であったTrxL2の酸化標的の同定に関しては、in vitro, in vivoの両面から明らかにすることができ、予想以上に研究が進展した。独自に作出したTrxL2の破壊株の表現型解析も滞りなく達成し、その生理意義に関しても重要な知見が得られた。
研究の過程で、TrxL2以外のタンパク質酸化因子の存在が見えてきた。それらの機能多様性を明らかにして、光合成を抑制するタンパク質酸化ネットワークの全体を明らかにする。
新型コロナによる研究活動制限や学会などのオンライン化により、当初の予定よりも経費の使用が抑えられた。次年度、本研究を継続的に実施するため、消耗品試薬などの物品費に使用する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Plant Cell Physiol.
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