研究課題
本研究は、C4単子葉植物であるエノコログサ(Setaria viridis)を新たな順遺伝学的研究材料として開発するとともに、それを用いて植物の窒素欠乏応答の分子メカニズム解明に挑戦するものである。具体的には順遺伝学的解析(変異体、GWAS)を行うためのパイプラインを構築し、窒素欠乏応答を指標に解析を行うことで、窒素欠乏感知・応答メカニズムを解明することを目指す。本年度は1. 栽培条件の検討と窒素欠乏に関する基礎データの収集、2. 順遺伝学的解析の材料整備、3. インフォマティクス解析パイプライン構築の3項目の研究を進めた。1. エノコログサのリファレンスゲノムの解読に用いられた実験系統であるA10.1を用いて(a)窒素欠乏を引き起こす栽培条件の検討と(b)窒素栄養条件に応じた表現型変化の定量データ収集を進めた。(a)実生は寒天培地、成熟植物は砂耕培地において、段階的に窒素源の濃度を下げてやることにより、窒素欠乏を引き起こさせることができることを明らかにし、これらの条件をエノコログサの窒素欠乏の標準栽培条件とした。(a)の条件において栽培した植物の硝酸イオン含量、クロロフィル量、生重量、根の形態、地上部の形態など詳細なデータを取得した。またシロイヌナズナやイネの窒素代謝や窒素情報伝達に関わる遺伝子の情報をもとにオーソログ遺伝子を探索し、(a)の条件で栽培した植物から抽出したRNAを用いた定量的RT-PCR解析を行う準備を完了した。2.重イオンビーム照射変異体M2集団約2000ラインを作出した。GWAS用の材料はゲノム配列解読済みの野生系統600系統をアメリカの共同研究者から入手する予定であったが、新型コロナ感染症に係る渡航制限等のため断念した。3.リファレンス配列を入手し、トランスクリプトーム解析のためのパイプラインを構築中である。また約600の野生系統のゲノム配列を入手した。
3: やや遅れている
所属機関の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における活動指針により、研究室での活動が制限されたため
引き続き研究実績の概要に記載した3項目の研究を推進する。具体的には以下の方針である。1. 実生と成熟植物の窒素欠乏処理に応じた遺伝子発現の変化を、定量的RT-PCRとRNA-seq解析により調べる。2. 変異体スクリーニングのための重イオンビーム照射変異体M2集団の作出を進める。また新型コロナ感染症の状況が改善し次第、野生系統600系統の入手を進める。当面は既に入手済みの16系統を用いて、窒素欠乏応答の基礎データの収集を進める。3. トランスクリプトーム解析のためのパイプライン構築を完了し、トランスクリプトーム解析を行う。その後、重イオンビーム照射による変異同定とGWAS解析のパイプライン構築を行う。
すべて 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
Nature Biotechnology
巻: 38 ページ: 1203~1210
10.1038/s41587-020-0681-2
PLOS Genetics
巻: 16 ページ: 1-27
10.1371/journal.pgen.1009197
The Plant Journal
巻: 102 ページ: 448~466
10.1111/tpj.14637
Current Opinion in Plant Biology
巻: 57 ページ: 104-109
10.1016/j.pbi.2020.07.002
Journal of Experimental Botany
巻: 54 ページ: 137-142
10.1093/jxb/eraa040