本研究は、C4単子葉植物であるエノコログサ(Setaria viridis)を新たな順遺伝学的研究材料として開発するとともに、それを用いた植物の窒素欠乏応答の分子メカニズム解明に挑戦するものである。 本年度は次の3項目の研究を推進した。1. 窒素欠乏応答の基礎データの収集、2. 順遺伝学的解析の材料整備、3. 形質転換効率の向上。 1. エノコログサA10.1系統における窒素欠乏に応じた遺伝子発現変化を解析した。短期(24h)と長期(120h)の窒素欠乏処理を施した実生の根から抽出したtotal RNAを次世代シーケンシングに供した。そして、得られたシークエンスデータ解析のためのパイプラインを構築し、遺伝子発現解析を行なった。その結果、短期/長期の窒素欠乏に応じて発現変化する遺伝子を多数同定することに成功した。 2. 重イオンビーム照射により変異を導入したエノコログサM1種子プールから、M2 約1000ラインを整備した。GWAS解析のために約600の野生系統のゲノム配列を入手し、解析パイプライン構築のための準備を整えた。しかし、新型コロナ感染症に係る渡航制限等のため、アメリカの共同研究者からの野生系統入手ができず、GWAS解析は中断した。 3. エノコログサの形質転換は、主に完熟種子の胚盤由来のカルスにA. tumefaciensを感染させる方法で行われるが、効率が数%(A. tumefaciens感染したカルスあたり得られる形質転換個体)と低い点が問題であった。カルス誘導と再分化の培地組成を再検討したところ、銅イオン(II)と銀イオンを加えることで、10%程度まで形質転換効率を上昇させることができた。
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