研究課題/領域番号 |
20K21272
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中道 範人 名古屋大学, 理学研究科(WPI), 特任准教授 (90513440)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | キナーゼ / 植物 / プロテオミクス |
研究実績の概要 |
我々が開発したユニークな植物のタンパク質リン酸化酵素(カゼインキナーゼ1 :CK1) の阻害剤や, 化合物との結合状態に基づいて人工設計するCK1を利用したプロテオミクス解析によって, 遺伝的重複性が障壁になって不明な点の多いシロイヌナズナのCK1ファミリーの関わる生理現象を明らかにする. 本研究の成果は, 遺伝的重複性が問題となって解析が遅れている植物の多くのキナーゼの機能解明へ向けたプロテオミクス研究のモデル系となる. 本年度は, すでにリコビナントタンパク質として合成されていたシロイヌナズナのCKL4をCK1ファミリーの代表酵素として解析した. 合成ATPアナログを用いたプロテオミクス解析へ向けて, 合成ATPアナログをCKL4が加水分解し, 基質に対してガンマ位のチオリン酸を転移できるかを解析した. チオリン酸化は, p-ニトロベンジルメチレートと抗チオフォスフェートエステル抗体を用いたウエスタンブロッティングで検出した. ATPのガンマ位がチオリン酸化したアナログのうち, アデニン骨格を持つものはCKL4タンパクによってガンマ位が加水分解され, 基質がチオリン酸化されたことが確認できた. 弱いながらも, アデニン骨格に分子修飾されたATPガンマ位チオリン酸アナログ2種類も, CKL4によって基質へガンマ位のチオリン酸が転移されていた. これらの反応はCKL阻害剤であるAMI-331によって完全に阻害されることも判明した. 次にアデニン骨格が分子修飾されたATPガンマ位チオリン酸アナログ2種類を効率的に使うことができることが期待されたCKL4変異体タンパクを3種類合成し, この可能性を解析した. 結果として, これら3種のCKL4変異体タンパクは, いずれのATPアナログの加水分解能力が落ちていたことが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は, 本研究計画全体の中で最も困難だと考えられていた実験を進めた. その結果, 実験系の確立には成功した. 一方で, CKL4のATP結合部位の構造を基にしたCKL4変異体を3種類作成したが, いずれの変異体タンパクもATPアナログの加水分解能力は落ちていた. これは変異によって, ATPアナログの加水分解能力が落ちていたというよりも, ATPそのものの加水分解能力も落ちたことを示唆する結果も得ている. したがって, これらの変異は適切ではなかったことが考えられる. しかしながら, 実験系が確立できたことから, この系を使ってATPアナログを効率的に加水分解できるCKL4タンパク変異体を探索することも可能である. また次年度の準備としてCKL遺伝子群の多重変異体の作成に着手している. 複数の遺伝子座を一度の形質転換でゲノム編集することを狙った実験系の立ち上げにも成功し, 複数の多重変異体を得ている. またCKL4の過剰発現の作出を試みたが, 汎用されているgateway binary vectorを使った方法では発現量がとても低くなることが判明した. そこで, より強いプロモーターをもつbinary vectorにCKL4をクローニングし, 形質転換体を作成したところ, ウエスタンブロッティングで検出できるほどのタンパク量を発現する形質転換体の作出に成功した. またCKL阻害剤AMI331の植物への処理方法を検討することで, 従来よりも強い効果を得る条件を見出した. この発見は当初予想されなかったものである.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き, チオリン酸化反応を指標にして, アデニン骨格に分子修飾されたATPガンマ位チオリン酸アナログ2種類を十分に加水分解できるCKL4の作出を試みる. 仮にこれらアナログを十分に加水分解できるCKL4が作出できれば, これを植物体で発現させ, チオリン酸化されたタンパクを抗体で濃縮し, これらをMS解析に持ち込むことで, CKL4の生体内での基質の同定が可能となる. また, これまでに作出したckl多重変異体やCKL4過剰発現体のリン酸化プロテオミクスを行うことで, 基質の同定が可能である. これら2つの方法を並列させることで, CKLにリン酸化される基質の同定を行いたい. またリン酸化プロテオミクスやATPアナログの解析が不調であっても, CKLの基質の同定へ向けて, 近接タンパク修飾法を用いてCKLの相互作用タンパク質を同定する. このための形質転換体の作出も順調に進んでいるため, この形質転換体を使った実験も早く取り組む. さらにckl変異体やCKL過剰発現体の表現型観察や網羅的遺伝子発現解析から, CKLが制御する生理現象を見出すことができると考えている. そしてその生理現象や遺伝子発現に関わる鍵タンパク質がCKLによるリン酸化を受けている可能性が高い. 網羅的なプロテオミクスと並行して, 仮説検証型のアプローチも進めることで, 確実に本研究の成果につなげていくことができると考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたATPアナログを使ったCKLタンパクの基質の同定や、リン酸化プロテオミクスが予想よりも困難であれば、この研究は頓挫してしまう。したがって、第二・第三の方策の準備をしつつあり、その準備が整う2021年次に大規模な実験を行うために予算を2021年度に使う予定である。
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